米フロリダ州エバーグレーズの穏やかな湿地帯で、鮮やかなピンクのベニヘラサギの群れが空を舞い、その下をサメがボラを追う様子を捉えた一枚の写真が、2025年の「マングローブ写真賞」で大賞に輝きました。この息をのむような美しい光景は、海面上昇や餌場となるマングローブの生息地減少といった、より深刻な環境問題への警鐘を鳴らしています。
エバーグレーズでサメの上を飛ぶベニヘラサギの群れ、マングローブ写真賞大賞受賞作
「マングローブ写真賞」とは?その目的と今年の成果
「マングローブ写真賞」は、今年で11年目を迎え、マングローブ林の重要性に対する意識を高めることを目的としています。マングローブは、淡水と海水が混ざり合う地域に生育する耐塩性樹木で、世界120カ国以上に分布しています。今年のコンテストには、過去最多となる78カ国から3303点もの応募作品が寄せられ、その関心の高さを示しました。
賞の創設者でありクリエーティブディレクターのレオ・トム氏は、「マングローブ写真賞の目標は、世界中の人々を魅了し、勇気を与えることにある」と語っています。また、「マングローブ生態系の持つ美しさと複雑さを浮き彫りにし、何よりも現地での保全活動につながる感情的なつながりを育むことが重要だ」と、その活動の核心を説明しました。
絶景写真が語るマングローブ生態系の重要性と危機
大賞に選ばれたマーク・イアン・クック氏の作品は、空と海で生きる多様な生命が、いかにマングローブの生態系に依存しているかを鮮明に示しています。審査員を務めたフォトジャーナリストで海洋生物学者のシラチャイ・アルンルグスティチャイ氏は、この写真について「同じ時空間の空と海で共に生き、死んでいく生命の多様性をはっきりと示している。すべてはマングローブの生態系に依存している」とコメントしました。
マングローブは、大気中の炭素を吸収・貯蔵する「カーボンシンク」としての役割を果たし、気候変動対策の要となります。さらに、洪水を防ぐ天然の防波堤として機能し、トラやジャガーといった絶滅の危機に瀕している動物たちの貴重な生息地にもなります。
しかし、その重要な役割にもかかわらず、マングローブは世界最大級の危機にさらされている生態系の一つです。国際自然保護連合(IUCN)の「生態系レッドリスト」によれば、世界の半数以上のマングローブが2050年までに崩壊する恐れがあるとされています。トム氏は、「マングローブはアマゾンの熱帯雨林のような象徴的な生態系とは異なり、蚊のはびこる沼地や荒れ地と誤解され、見過ごされがちだ」と指摘。だからこそ、「写真が変革に向けた強力なツールとなり、マングローブの真の物語を垣間見ることができる窓になってくれる」と、その力を強調しました。
まとめ
「マングローブ写真賞」は、美しい写真を通じてマングローブ生態系の重要性と、それが直面する危機を世界に伝えています。ベニヘラサギとサメが共存するフロリダの湿地の写真が示すように、マングローブは地球の生命多様性を支えるかけがえのない存在です。この賞が、私たち一人ひとりがマングローブの保全に関心を持ち、行動を起こすきっかけとなることを期待します。
参考文献
- CNN.co.jp. (2025). サメの上空を舞うハシビロヘラサギの群れを捉えた写真が「マングローブ写真賞」の大賞に輝いた. https://www.cnn.co.jp/photo/35236021.html