早期のアルツハイマー病における認知機能の低下は、これまで多くの人々にとって避けがたいものとされてきました。しかし、食事、運動、ストレス管理、社会交流といった生活習慣を根本的に見直すことで、認知機能の改善や維持が可能であることが、これまでの研究で示唆されていました。この度、試験期間を延長した新たな研究により、その効果がさらに持続し、認知能力が維持または改善されることが明らかになり、アルツハイマー病治療に新たな希望をもたらしています。
アルツハイマー病患者の希望:タミー・マイダさんの事例
68歳のタミー・マイダさんは、50代後半でアルツハイマー病の影響により記憶力の衰えを経験し始めました。車の鍵、眼鏡、財布の置き忘れが頻繁になり、読んでいた小説の登場人物を思い出せず、食料品をガレージに放置してしまうなど、日常生活に支障をきたすようになりました。自営業の帳簿もつけられなくなり、「正直、正気を失ってしまうのではないかと思ったし、その恐怖はおそろしいものだった」と当時の心境を語っています。
アルツハイマー病の認知機能が改善し、夫と共にサイクリングを楽しむタミー・マイダさん。生活習慣改善の効果を示す象徴的な一枚。
マイダさんは、食事、運動、ストレスレベル、社会との交流を抜本的に変えることを目的とした20週間の無作為化臨床試験に参加しました。その結果、彼女の認知能力は目覚ましく改善し、小説を読み、その内容を思い出せるようになり、帳簿も再び正確につけられるようになりました。2024年6月に発表された研究では、血液検査でアルツハイマー病の特徴である脳内のアミロイド濃度が低下していることも確認されました。さらに、合計40週間にわたり徹底的な生活習慣の変更を続けたところ、マイダさんの認知機能は一層の改善を見せたといいます。
新研究が示す持続的効果と改善率
この最新の研究結果は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の臨床医学教授であるディーン・オーニッシュ氏によって、カナダ・トロントで開催されたアルツハイマー病協会の年次国際会議で発表されました。介入を受けたグループの26人全員に改善が見られたわけではありませんが、驚くべきことに46%の被験者が、記憶力、判断力、問題解決能力、さらには家庭生活や趣味、身体の衛生維持能力の変化を測定する四つの標準検査のうち、三つで改善を示しました。
オーニッシュ氏は、「さらに37.5%の被験者は、40週間の介入期間中に認知機能の低下がみられなかった」と述べ、83%以上の被験者が5カ月間のプログラム期間中に認知機能が改善または維持されたことを強調しました。これらの改善は長期にわたって持続することが多いとされています。また、オーニッシュ氏は、既存のアルツハイマー病治療薬に見られる脳出血や脳浮腫といった深刻な副作用が、生活習慣の改善にはない点も指摘しました。
徹底的な生活習慣介入プログラムの全貌
この画期的な研究で実施された生活習慣介入プログラムは、非常に厳格かつ包括的な内容でした。
食事療法
介入群の参加者は厳格なビーガン食を摂取しました。食事の大部分は、全粒穀物、野菜、果物、豆腐、ナッツ、種子に含まれる複合炭水化物が占め、砂糖、アルコール、加工食品、超加工食品に含まれる精製炭水化物は禁止されました。カロリー制限は設けられませんでしたが、たんぱく質と総脂肪は1日の摂取カロリーの約18%に抑えられ、これは平均的な米国人のたんぱく質摂取量よりもはるかに少ない量でした。
身体活動とストレス管理
毎日有酸素運動を行い、ストレス軽減策に1時間費やすことが奨励されました。これには瞑想、深呼吸、ヨガなどが含まれます。また、良質な睡眠を優先することも重要視されました。
社会的サポートとサプリメント
参加者はオンラインのサポートグループに参加し、週3回1時間のグループセッションを通じて自分の気持ちを共有し、サポートを求め合う機会が設けられました。さらに、マルチビタミン、クルクミン配合のオメガ3脂肪酸、コエンザイムQ10、ビタミンCとビタミンB12、マグネシウム、プロバイオティクス、ヤマブシタケなどのサプリメントも全員に提供されました。
努力がもたらす顕著な成果
オーニッシュ氏によれば、介入群の中で、生活習慣を変える努力を熱心に行った被験者ほど、認知機能の改善も顕著であったと報告されています。
「私たちの新たな研究結果は、早期のアルツハイマー病患者に、こうした徹底的な生活習慣の改善を行い、それを維持すれば、病気の進行を遅らせ、多くの場合、改善さえも期待できるということを知らしめ、力づけるものだ」とオーニッシュ氏は述べ、このアプローチがアルツハイマー病に苦しむ人々に新たな希望を与える可能性を示唆しています。
この研究は、薬物療法に頼らずとも、私たちの日常の選択が脳の健康に多大な影響を与え、アルツハイマー病の認知機能改善に貢献しうることを示しており、今後の医療やライフスタイルにおける大きな転換点となるかもしれません。