うなぎ料理と聞くと、多くの人が香ばしい蒲焼きを思い浮かべるでしょう。しかし、うなぎの魅力はそれだけにとどまりません。実は、うなぎは「捨てる部位がない」と言われるほど、頭から尻尾まで、それぞれの部位に独特の風味と楽しみ方があります。特に、お酒を片手にうなぎの様々な部位を味わう時間は、まさに至福のひととき。この記事では、普段あまり知られることのないうなぎの「隠れた部位」に焦点を当て、その魅力を余すことなくご紹介します。通なうなぎの楽しみ方を知り、その奥深い世界を堪能してみませんか。
香ばしく焼き上げられたうなぎの蒲焼きと日本酒
うなぎの魅力を深掘り:意外な「隠れた部位」と楽しみ方
うなぎは、蒲焼きや白焼きといった定番の食べ方以外にも、様々な部位を活かした料理が存在します。これらの部位は、それぞれ異なる食感や旨味を持ち、うなぎ通の間では「肴」としても親しまれています。
カブト(頭)
うなぎの頭、通称「カブト」は、脂がのっており、凝縮された旨味が特徴です。骨が硬いため、家庭で調理する際は圧力鍋を使い、うなぎのたれで煮込むと絶品の「かぶと煮」が完成します。関西では「半助(はんすけ)」と呼ばれ、頭をつけたまま蒲焼きにする風習があり、その頭を豆腐と一緒に煮込んだ「半助豆腐」は、上方落語にも登場する大阪の庶民の味として知られています。
ヒレ(背びれ)
うなぎの背びれである「ヒレ」は、関東の背開きでは通常取り除かれる部分です。しかし、うなぎ串焼き店では、10匹分ほどのヒレを丁寧に巻き、串焼きとして提供されます。コラーゲンが豊富で、脂の旨味と独特の食感が楽しめます。店によっては、アクセントにニラを芯にする工夫も見られます。
バラ(中骨周りの身)
「バラ」は、うなぎの中骨に付いた身の部分を指します。マグロの中落ちや牛肉のカルビに例えられることが多く、うなぎ串焼きの人気メニューの一つです。濃厚な旨味があり、茹でてポン酢でさっぱりといただく店もあります。この部位の希少性と美味しさが、食通を魅了します。
レバー(肝臓)
うなぎの肝臓、すなわち「レバー」は、一匹から一つしか取れない非常に希少な部位です。丁寧な店では、10匹分ほどのレバーを集めて「レバーの串焼き」として提供しますが、その希少性ゆえに売り切れ必至の「超レア」メニューとして扱われます。独特の風味と栄養価の高さが魅力です。
ホネ(中骨)
うなぎの「ホネ(中骨)」は、カリカリに揚げた「骨せんべい」として、お酒の肴に最適です。骨せんべいを作る際には、骨についた内臓や血をきれいに取り除く下処理が行われます。コラーゲンがたっぷり含まれているため、この下処理を終えた職人の手は驚くほどツルツル、すべすべになると言われています。栄養価も高く、健康にも良いとされています。
粋な「うなぎ前」の文化:うな串屋で味わう全貌
うなぎ料理は、注文してから焼き上がるまでに時間がかかるものです。この「待つ時間」を粋に楽しむ文化が「うなぎ前(うなまえ)」と呼ばれます。これは、うなぎの蒲焼きが提供されるまでの間に、上記で紹介したカブト、ヒレ、バラ、レバー、ホネといった様々な部位の串焼きや、肝にワサビを添えた「肝わさ」などを肴に一杯やる時間を指します。
特に、捌きたてのうなぎにこだわる店では、客に生きたうなぎを見せてから捌き始め、新鮮な骨せんべいや肝わさを「うなぎ前」として提供することがあります。これらのうなぎの隠れた魅力を一度に味わえるのが「うな串屋」(うなぎ串焼き専門店)です。様々な部位を少しずつ楽しむことで、うなぎの奥深さや、それを支える職人の技に触れることができます。蒲焼きだけでなく、うなぎの全貌を味わう「うなぎ前」は、日本の食文化の粋を凝縮した贅沢な時間と言えるでしょう。
参考文献
- 高城 久 著, 『読めばもっとおいしくなる うなぎ大全』, 講談社, 2024.