東京都の火葬料高騰:単なる価格問題ではない、その背景と行政の課題

東京都内で火葬料金が一部9万円に高騰している現状に対し、都は対策に乗り出す姿勢を明確にした。小池百合子知事は9月末の都議会定例会において、自治体が民営火葬場の経営に対し適切な指導を行うための法改正を国に要請する意向を表明。全国の火葬場の97%が自治体運営であるのに対し、東京23区では9カ所中7カ所が民営という特異な構造がこの問題の根底にある。インターネット上では「中国資本が料金をつり上げている」との憶測も流れているが、事態はそれほど単純ではない。

東京都内の火葬場の料金案内板。高騰する火葬費用が9万円に達し、多くの都民に影響を与えている現状を示す。東京都内の火葬場の料金案内板。高騰する火葬費用が9万円に達し、多くの都民に影響を与えている現状を示す。

東京の火葬場が抱える特殊な構造

東京都内において6カ所の火葬場を運営しているのは、プライム市場に上場する広済堂ホールディングスの子会社である東京博善だ。大田区の公営「臨海斎場」や江戸川区の「瑞江葬儀所」の火葬料金が対象区民であれば4万4000円から5万9600円であるのに対し、東京博善が運営する6施設では一律9万円に設定されている。さらに、東京博善は今年8月、長年提供してきた「区民葬」の取り扱いを終了すると発表した。この特異な市場構造が、東京都の火葬費用高騰問題の核心にある。

「区民葬」制度の形骸化と料金高騰の経緯

区民葬とは、葬儀費用の負担軽減を目的とし、通常9万円の火葬料金を5万9600円で提供する制度である。元々は生活困窮者や低所得者向けに始まったものだが、23区在住の親族がいれば所得に関係なく利用できるという点が特徴だった。東京博善は2021年に10年ぶりの値上げを実施し、普通炉の料金を5万9000円から7万5000円に引き上げた。その後、燃料サーチャージ制度を導入して8万円台の変動料金となり、2024年には9万円に固定された。わずか4年で3万円以上の値上げが実施されたことになる。この火葬料高騰は都民の大きな関心事となり、2025年の東京都議会議員選挙の隠れた争点としても注目を集めている。国民民主党の候補者はSNSで外資参入への危機感を表明し、日本共産党は政策に火葬料の引き下げを盛り込むなど、政治的な動きも活発化している。

行政の「無策」が招いた長期的な問題

料金高騰が問題視される一方で、根本的な原因は法整備の遅れにあると指摘されている。例えば、東京博善が取り扱いを終了する区民葬には、特別な審査基準が設けられていなかった。これにより、低所得者の負担軽減という本来の存在意義が形骸化していたのだ。また、区民葬を取り扱える葬儀社は全東京葬祭業協同組合連合会に加盟している業者に限られ、希望しても利用できないケースがあるという不公平な制度設計も問題視されている。さらに深刻なのは、区民葬の減額分を長年、東京博善という民間企業が全額負担してきたという事実だ。行政は民間企業の「善意」に問題を委ね、適切な指導や法的な枠組みの構築を怠ってきた。その結果、料金高騰を受けて行政が「何とかしろ」と要求するのは、長年の行政の怠慢が招いた結果とも言えるだろう。


参考文献