北村晴男氏のX投稿炎上と支持拡大のメカニズム:政治プロパガンダの力学

第27回参議院選挙で日本保守党から初当選を果たした北村晴男参議院議員が、X(旧Twitter)に石破茂首相を「醜く奇妙な生き物」「間違いなく工作員」と投稿し、大きな波紋を呼んでいます。通常であれば、このような過激な発言は批判の的となり、支持を失うことにも繋がりかねません。しかし、今回のケースでは、北村氏の発言は撤回も謝罪もされず、むしろその支持層からの熱烈な擁護と、さらなる支持拡大という現象を引き起こしています。この動きは、現代の政治における特定のプロパガンダ手法の有効性を示唆しています。

北村晴男氏のX投稿炎上後の姿勢:27回参議院議員選挙で初当選した日本保守党・北村晴男議員が、石破茂氏への投稿について撤回や謝罪を行っていない様子北村晴男氏のX投稿炎上後の姿勢:27回参議院議員選挙で初当選した日本保守党・北村晴男議員が、石破茂氏への投稿について撤回や謝罪を行っていない様子

「罵倒」を「正当な論評」と捉える支持層の声

北村氏のX投稿が炎上すると、彼を「擁護」する声が支持層から続々と上がりました。彼らの主張は、「醜く奇妙な生き物」という表現は、メディアや反日勢力が北村弁護士を潰すために仕掛けている「言いがかり」であるというものです。北村氏本人はこの「醜い」という言葉について、党内から辞任を求める声が上がっているにもかかわらず、首相の座に居座り続ける石破首相の「内面」を指すものであり、政治家に対する正当な論評に過ぎないと説明しています。この説明に対し、支持者からは「何も間違っていない」「当たり前のことを言って何が悪い」といった共感が寄せられました。

また、「間違いなく工作員」という発言についても、同様の擁護が見られます。「女性自身」の取材に対して北村氏は、石破首相を「左派活動家」と断言し、自民党内部に潜り込み党を崩壊させ、左派政党に変えるための様々な工作活動をしていると主張しました。これに対しても、「何も間違っていない」「言いたいことを言ってくれてスカッとした」といった支持の声が上がっています。このような強い擁護の声に後押しされ、北村氏は件の発言を撤回することも、謝罪することもありませんでした。それどころか、その揺るぎない姿勢が「圧力に屈しない真の政治家」として賞賛され、同じような政治信条を持つ人々の間でさらに支持を広げる結果となっています。

北村晴男氏による石破茂氏へのX投稿スクリーンショット:「醜く奇妙な生き物」「間違いなく工作員」と記された、炎上した発言内容を示す北村晴男氏による石破茂氏へのX投稿スクリーンショット:「醜く奇妙な生き物」「間違いなく工作員」と記された、炎上した発言内容を示す

参政党の躍進に見る「批判を力に変える」手法

こうした展開は、最近の日本の政治において度々見られる現象と共通しています。「日本人ファースト」を掲げる参政党が、メディアや一部から「排外主義」「陰謀論」「ネオナチ」などと批判された際も、候補者や支持者は強く反論し、自らの主張を貫きました。その結果、比例代表で743万票を獲得し、14議席という大躍進を遂げたことは記憶に新しいでしょう。海外メディアから「陰謀論の極右政党」と評される参政党と、日本保守党の北村氏が、似たような政治的手法で求心力を高めている構図は、現代政治におけるプロパガンダの新たな側面を示しています。

政治的な是非は一旦脇に置き、熱烈な支持者やシンパを獲得するための「宣伝活動」(プロパガンダ)という一点に注目すると、両者に共通する「お見事」と評すべき手法が見えてきます。人類の歴史を振り返ると、経済的困窮や政治的不満を抱える人々から熱狂的な支持を得た者は、以下の三つの原則を徹底して実践していることが分かります。

  1. 現在の状況や問題を生み出している「敵」を明確にする。
  2. その「敵」は「自分たちと同じ人間ではない」と強調し、憎悪を煽る。
  3. 批判や反論は「正義を実行する我々を貶める陰謀だ」として黙らせる。

熱狂的な支持を呼び込むプロパガンダの三原則

今回の北村氏と擁護派のやり取りを見ると、これらの三原則が巧みに活用されていることが分かります。まず、現在の日本の状況や問題を石破茂首相や左派活動家が生み出していると定義し、「敵」を明確に設定しています。次に、その敵を「醜い性根を持つ奇妙な生き物」「工作員」と罵ることで、自分たちのような「美しい大和魂を持つ日本人」とは「同族ではない」と強調し、憎悪と同胞意識を刺激しています。これは、敵を非人間化することで、支持層の結束を強める常套手段です。

そして、メディアや一部からの批判に対しては、「マスゴミや反日勢力が、脅威である北村氏を潰そうとしている」「我々の主張は正義であり、それに反対するものは不当な攻撃である」という論調で反論し、批判を「正義を実行する我々を貶める陰謀」として退けています。このような手法は、支持層の心理的な結束を強固にし、外部からの批判を逆に求心力に変える力を持っています。

このプロパガンダ手法は、現在の国際情勢、例えばロシアとウクライナ、パレスチナとイスラエルにおける紛争でも進行形で行われています。敵国の兵士がいかに非人道的な行為を行ったかを「報道」の形で自国民と国際社会にアピールすることで、「相手は人間ではないのだから、どんなに残虐な兵器を使っても良い」という社会ムードを醸成し、戦意を高揚させているのです。

北村晴男氏のX投稿を巡る一連の動きは、特定の政治家が現代社会においてどのように支持を拡大し、その求心力を高めているのかを理解するための重要な事例と言えるでしょう。敵を明確にし、それを非人間化し、批判を陰謀と見なすというプロパガンダの三原則が、デジタル時代において依然として強力な影響力を持っていることが示されています。

参考文献