タイとカンボジアの国境地帯で続く紛争は、両国政府がそれぞれの国内被害地域を各国外交官に公開し、その深刻な実態が明らかになりました。特に民間人への影響は甚大で、多くの人々が避難生活を強いられています。この国際社会が注目する紛争に対し、日本もまた平和への貢献を強く訴えています。
タイ側で露わになった民間人の惨状
タイ側で行われた被害地域視察では、国境紛争によって民間人がいかに大きな犠牲を払っているかが鮮明に示されました。東北部シーサケート県にあるコンビニエンスストアは、戦闘が始まった7月24日に撃ち込まれた砲弾により炎上し、店内にいた8人が死亡する悲劇に見舞われました。焦げ付いた商品棚がそのまま残り、ガラスの破片が散乱する現場は、かつての日常が突如として奪われた惨状を物語っています。
妻と2人の子供を亡くしたコムサンさん(40)は、避難命令を受けて移動中、給油のために立ち寄ったガソリンスタンドでこの爆発に遭遇しました。外で待っていたコムサンさんの目の前で、菓子を買いにコンビニに入った妻と子供たちが犠牲となったのです。「3人はもう戻ってこない」と語る彼の表情には、深い疲弊と絶望が滲んでいました。また、母親の遺影を抱き涙を流す女性は、「母には何も責任がない」と訴え、無辜の民間人が巻き込まれたことへの理不尽さを露わにしました。このコンビニは国境係争地から約30キロも離れた市街地にあり、視察に参加したある国の駐在武官は、カンボジア軍が攻撃目標との距離を誤った可能性を指摘しています。
係争地から約10キロの距離にあるシーサケート県内の小規模な病院も、7月26日に砲弾の直撃を受け、窓や内部が破壊されました。幸いにも患者は衝突発生直後に避難しており負傷者はいませんでしたが、地元自治体幹部は「ここが攻撃を受けるとは誰も思っていなかった」と述べ、民間施設への攻撃の不条理さを強調しました。
現在、約5000人が避難生活を送る同県の施設では、係争地近くに住むタニャラックさん(53)が取材に応じ、「早く家に帰りたい」と切実な思いを語りました。避難数日後に一度帰宅を試みたものの、再び聞こえてきた銃声に恐怖を感じ、施設に戻らざるを得なかったといいます。
タイ・カンボジア国境紛争で砲弾により炎上したタイ東北部シーサケート県のコンビニ前で、犠牲となった家族の写真を手に悲しむ遺族ら。民間人被害の悲惨さを物語る光景。
カンボジア側の状況と日本の国際社会への呼びかけ
一方、カンボジア政府はタイへの攻撃について「侵略に対して自衛権を行使した」と主張しています。カンボジア側でも北部ウッドーミアンチェイ州で空爆などによる被害地域と、数千人が滞在する避難所が公開され、その現状が確認されました。
今回の紛争に対し、日本の外交官たちも積極的に関与し、平和への強いメッセージを発信しています。タイ側の視察に参加した大鷹正人駐タイ大使は、7月28日にタイとカンボジアが合意した停戦について「定着のために日本を含めて国際社会が支援する必要がある」と強調しました。
また、カンボジア側の視察に参加した植野篤志駐カンボジア大使は、自身のフェイスブックへの投稿で、「一刻も早く完全な平和が戻るため、日本政府として最大限尽力する」とコメントし、日本政府がこの紛争の解決に向けて積極的に貢献していく姿勢を示しました。
国境紛争が続くタイ・カンボジア両国での民間人の甚大な被害は、国際社会の早急な介入と支援の必要性を改めて浮き彫りにしています。日本政府も両大使を通じて、停戦の定着と完全な平和の実現に向けた支援を強く表明しており、今後の国際社会の動向が注目されます。(時事通信による)