化学物質過敏症とは?身近な香料が引き起こす隠れた体調不良とその対策

化学物質過敏症(MCS)は、日常生活に存在する微量の化学物質に体が反応し、健康に深刻な影響を及ぼす疾患です。特に近年、香料を含む洗剤や柔軟剤、殺虫剤などが原因で体調不良を訴える人が増えており、社会的な注目を集めています。現在、推定患者数は約120万人に上り、潜在的な患者数は1000万人以上とも言われ、その実態と対策への理解が求められています。

化学物質過敏症とは?症状と原因

化学物質過敏症(MCS)は、建材、塗料、接着剤、自動車の排気ガス、さらには洗剤や化粧品などの日用品に含まれる多様な化学物質が引き金となり、心身に様々な不調を引き起こす状態を指します。その定義は「微量の化学物質により体調不良を引き起こし、日常生活に支障をきたす疾患」とされています。

症状は個人差が非常に大きく、多岐にわたります。代表的なものには、倦怠感、頭痛、動悸、めまい、筋肉痛、関節痛、皮膚トラブル、視覚障がい、呼吸困難などが挙げられます。また、自律神経失調症やアレルギー症状を併発するケースも多く見られます。

この疾患の発症に至るメカニズムは、まだ完全に解明されていません。しかし、症状を誘発する主な原因として、香料を含む洗剤や柔軟剤、殺虫剤、虫よけスプレーなどが指摘されています。そのため、現時点での最も有効な対策は、原因となる化学物質との接触を避けることとされています。

深刻な現状:患者数と認知度の推移

湘南鎌倉総合病院の渡井健太郎・免疫・アレルギーセンター部長は、自身の著書『化学物質過敏症とは(集英社新書)』の中で、化学物質過敏症の患者数を約120万人、潜在患者数を1000万人以上と推計しており、その規模の大きさが浮き彫りになっています。

このような状況を受け、福岡県北九州市に拠点を置くシャボン玉石けんのような企業は、MCSの啓発活動に積極的に取り組んでいます。同社は2020年から、全国の20~60代の男女を対象としたMCSに関する認知度調査を継続的に実施しています。

最新の2025年の調査結果では、MCSの認知度が77%に達し、過去最高を記録しました。さらに、「香料による体調不良を経験したことがあるか」という質問に対しては、2020年の35%から2025年には45%へと10ポイント増加しており、香料に起因する健康問題がより広範に認識されつつある現状が示されています。この数字は、日常生活における化学物質、特に香料への意識の高まりを反映していると言えるでしょう。

化学物質過敏症への具体的な対策

化学物質過敏症の症状を和らげ、より快適な日常生活を送るためには、いくつかの対策が有効とされています。最も基本的なのは、症状を引き起こす要因となる化学物質との接触を極力避けることです。具体的には、無香料の製品を選んだり、刺激の少ない自然素材の製品を使用したりすることが推奨されます。

加えて、室内の換気を徹底することも重要です。窓を開けて新鮮な空気を取り入れたり、換気扇を適切に利用したりすることで、室内に滞留する化学物質の濃度を下げることができます。また、ストレスは体の免疫機能や自律神経に影響を与えるため、ストレスの軽減に努めることも有効な対策の一つです。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動などを通じて、心身の健康を維持することが、症状の緩和に繋がると考えられています。

まとめ

化学物質過敏症は、微量の化学物質が原因で多様な体調不良を引き起こす疾患であり、その患者数と潜在患者数は非常に多く、社会全体での認知と理解が不可欠です。香料による体調不良の経験者が増加している現状は、この問題の深刻さを物語っています。メカニズムは未解明ながらも、原因物質の回避、適切な換気、ストレス軽減が有効な対策とされており、日々の生活の中で意識的に取り組むことが、患者やその周囲の人々にとって重要となります。この疾患へのさらなる理解と社会的な配慮が、より安心して暮らせる環境を築く鍵となるでしょう。


参考文献:

  • 渡井健太郎『化学物質過敏症とは(集英社新書)』
  • シャボン玉石けん「化学物質過敏症に関する認知度調査」関連発表
  • Yahoo!ニュース (オリジナル記事の参照元)