フォードCEO、米関税政策が日本車に「著しい優位性」をもたらすと警鐘

フォードのジム・ファーリーCEOは、トランプ前政権が講じた関税政策が、フォードに多大なコスト負担を強いる一方で、日本の自動車メーカーに「実質的な」価格競争上の優位性をもたらしていると警鐘を鳴らしました。特に、日本に対する関税引き下げが、日本車の輸出に大きな恩恵を与えていると指摘しています。

フォードを直撃する20億ドルの関税コスト

フォードのジム・ファーリーCEOは2025年7月30日の決算説明会で、トランプ政権が課した関税によるコスト負担が、同社にとって20億ドル(約3000億円)に達するとの見通しを示しました。これは、2025年第1四半期に推定されていた15億ドル(約2250億円)を5億ドルも上回る額です。この巨額の関税負担は、フォードの経営戦略において看過できない課題となっています。

ファーリーCEOはアナリストに対し、このような関税に加え、電気自動車(EV)や新たな温暖化対策に関する規制が厳しく複雑化していることを背景に、自動車メーカーは今後、グローバルな展開から地域単位でのビジネス展開へと軸足を移していくとの見方を示しました。「ヨーロッパ、北米、アジアが3つか4つの地域に分かれ、それぞれに関税率が調整される、地域単位のビジネスになりつつあると強く感じています。これは極めて根本的な変化です」と彼は語り、国際的な貿易政策が企業の事業モデルに変革を促している現状を強調しました。

フォードのジム・ファーリーCEOが米国自動車市場における関税の影響と日本車との競争力について説明する様子フォードのジム・ファーリーCEOが米国自動車市場における関税の影響と日本車との競争力について説明する様子

日本車に与えられた「実質的な優位性」

同じく7月30日、ブルームバーグとのインタビューでファーリーCEOは、トランプ政権が日本への関税を25%から15%に引き下げたことが、日本を含むアジアの競合企業全体に「著しい」コスト面での優位性をもたらしていると述べました。この関税引き下げは、日本の自動車産業にとって有利な追い風となっています。

ファーリーCEOは、今回の関税引き下げに加え、日本の低い人件費や円安といった有利な為替レートが、日本車の輸出に「大きな優位性」をもたらしていると強調しました。具体的な例として、ケンタッキー州で製造されるフォード・エスケープが、日本製のトヨタRAV4よりも5000ドル(約73万円)高くなる可能性を指摘。さらに、ミシガン州で製造されるフォード・ブロンコが、日本製のトヨタ・4ランナーよりも最大で1万ドル(約147万円)も高価になるかもしれないと述べ、米国生産車と日本生産車の間の価格競争力の格差が拡大している現状を浮き彫りにしました。これらの具体的な価格差の例は、米国の自動車メーカーが直面している厳しい競争環境を示唆しています。

価格競争に依存しないフォードの戦略

ファーリーCEOはブルームバーグに対し、フォードはトランプ政権と協力し、「関税コストをできるだけ抑え、競争力を高められるよう努めている」と語りました。しかし、彼は「最終的にフォードが目指しているのは、価格だけで勝負する分野で戦うことではない」と続け、フォードが単なる価格競争を超えた価値提供に焦点を当てていることを示唆しました。これは、ブランド力、技術革新、顧客体験といった非価格競争要因を通じて、市場での差別化を図るフォードの長期的な戦略を反映しているものと考えられます。

まとめ

フォードのジム・ファーリーCEOの発言は、米国の関税政策が国内自動車メーカーに与える経済的打撃と、日本を含む海外の競合他社に与える相対的な優位性を明確に示しました。20億ドルという巨額の関税コストはフォードにとって大きな負担であり、企業はグローバルから地域単位へとビジネスモデルの転換を迫られています。一方で、日本への関税引き下げや円安、低い人件費といった要因が日本車の輸出競争力を高め、米国市場での価格優位性を生み出しています。フォードは関税コストの抑制に努めつつも、最終的には価格競争に依らず、製品やブランドの価値で勝負していく姿勢を示しており、今後のグローバル自動車産業の動向は、貿易政策と企業の戦略転換によって大きく左右されるでしょう。

参考資料

  • Business Insider
  • Bloomberg