人気女優シドニー・スウィーニーを起用したアパレルブランド、アメリカン・イーグル・アウトフィッターズのジーンズ広告が、ドナルド・トランプ前米大統領のSNS投稿をきっかけに激しい論争を巻き起こし、同社の株価を一時最大24%も急騰させる異例の事態に発展しました。この広告を巡る「ジーンズ」と「遺伝子」の言葉遊びが白人優越主義を想起させるとして批判の声が上がる中、共和党員であるスウィーニー氏への支持を表明したトランプ氏の一言が、市場に大きな影響を与えたと見られています。
ニューヨーク市内で掲示されている女優シドニー・スウィーニー出演のアメリカン・イーグルジーンズ広告。
トランプ氏のSNS投稿が株価に与えた影響
2024年4月4日(現地時間)、ニューヨーク証券取引所でアメリカン・イーグルの株価は前日比23.65%も急上昇し、13.28ドル(日本円で約1950円)を記録しました。この株価急騰の直接的な引き金となったのは、ドナルド・トランプ前大統領が自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿したメッセージです。トランプ氏は、「登録された共和党員であるシドニー・スウィーニー氏が今、最もホットな広告を披露した。アメリカン・イーグルの広告で、ジーンズが飛ぶように売れている。頑張れ、シドニー!」と述べ、スウィーニー氏と広告を強く支持する姿勢を示しました。
「ジーンズ」広告の論争と優生思想への批判
アメリカン・イーグルは先月、女優シドニー・スウィーニーをモデルに起用した新たなジーンズ広告シリーズを公開しました。しかし、メインコピーである「シドニー・スウィーニーは素晴らしいジーンズ(Jeans)を持っている」という表現が物議を醸しました。英語で「ジーンズ(Jeans)」と「遺伝子(Genes)」の発音が似ていることから、一部ではこの広告が白人優越主義を連想させるとの批判が浮上したのです。特に、広告内で青い目をしたスウィーニー氏が「私の遺伝子(Genes)は親から受け継いだもので、髪の色や性格、目の色などを決定することがある。私のジーンズ(Jeans)は青色」と語るシーンは、彼女が青い目の白人であることを強調し、ナチス・ドイツの優生思想との関連性を指摘する声まであがりました。さらに、スウィーニー氏が共和党員であることが広く知られていたため、この論争は一層拡大しました。
政治的波紋:J.D.ヴァンス副大統領の介入
この広告を巡る騒動は、政治の舞台にも波及しました。米国のJ.D.ヴァンス副大統領(当時)もこの問題に言及し、民主党を批判する材料として取り上げました。ヴァンス氏は4月1日、あるポッドキャスト番組に出演し、「ごく普通の米国の美しい女性がジーンズの広告に出演しただけなのに、人々は理性を失っている」と述べました。続けて、「民主党への政治的アドバイスとして、シドニー・スウィーニーを魅力的だと思う人を全員ナチスだと言い続ければいい」と皮肉を込め、今回の批判が過剰であることを示唆しました。
シドニー・スウィーニーのプロフィールと影響力
シドニー・スウィーニーは、HBOの人気ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』や『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート』への出演で知られるトップ女優です。映画界でも活躍しており、その演技力とカリスマ性で多くのファンを魅了しています。また、韓国の有名な化粧品ブランド「LANEIGE(ラネージュ)」のグローバルモデルを務めるなど、その影響力はエンターテインメント業界にとどまらず、多岐にわたる分野に及んでいます。彼女の知名度と話題性が、今回のアメリカン・イーグルの広告に大きな注目を集める要因となりました。
アメリカン・イーグル社の公式見解
こうした批判と議論に対し、アメリカン・イーグル側は広告意図を明確に否定する姿勢を示しています。同社は、「問題となった広告コピーは、あくまでジーンズという商品そのものを指しているだけであり、それ以上の政治的・社会的な意図は一切ない」と説明しました。さらに、4月2日には公式インスタグラムアカウントを通じて、「『シドニー・スウィーニーは素晴らしいジーンズを持っている』という表現は、ジーンズに関するものであり、当社が以前から使用してきたフレーズである」と強調。「素晴らしいジーンズはすべての人に似合う」と改めて声明を発表し、特定のイデオロギーを支持するものではないことを訴えました。
広告、政治、市場が交錯する現代社会の縮図
今回のシドニー・スウィーニー出演のアメリカン・イーグル広告を巡る一連の騒動は、単なる広告キャンペーンの枠を超え、現代社会における広告表現の解釈、政治的言動がもたらす影響、そしてそれが株式市場に与える予期せぬ反応が複雑に絡み合った事態を示しています。企業のメッセージが多様な解釈を生み、有名人の政治的立場や影響力、さらにはSNS上の発言が瞬時に市場を動かす可能性を浮き彫りにしました。今後も、このような広告と社会情勢、政治が密接に結びついた現象には、注視していく必要があるでしょう。