米テキサス州における連邦下院選挙区の区割り再編案を巡り、深刻な政治的対立が続いています。この再編案の採決を阻止するため州外へと退避した州下院の民主党議員らに対し、アボット知事(共和党)は州都オースティンへの帰還を命令。政治的な駆け引きは一段と激化しており、州を超えた波紋を広げています。これは単なる地方政治の問題に留まらず、来年の中間選挙を控えた米国の政治力学に大きな影響を与える可能性を秘めています。
民主党議員の州外退避と共和党の狙い
共和党が主導するテキサス州議会で提示された下院選の州選挙区の区割り再編案は、民主党が現在保持している議席の一部を奪うことを狙ったものです。この動きに対し、50人以上に上る民主党議員らは7月、採決に必要な定足数を確保させない目的で州外へと集団退避しました。イリノイ州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州など、複数の州に分散して避難することで、議会の機能を停止させ、再編案の強行採決を阻止しようと試みています。この再編案は、トランプ前大統領が推進する共和党の戦略の一環であり、来年の中間選挙で連邦下院における共和党のわずかな多数派を維持するための重要な布石と見られています。
アボット知事による強硬措置と法的警告
民主党議員らの退避を受け、アボット知事は即座に強硬な姿勢を示しました。4日の州議会では、共和党の州下院議長が州外へ出た民主党議員らをオースティンへ連れ戻すための民事拘束令状を発行。ただし、この命令は州内にのみ適用されるため、州外にいる議員には直接的な強制力はありません。
アボット知事は声明で、「州民に対する義務を放棄した議員をだれでも捜索、拘束し議場に連れ戻すよう州公安局に命じた」と述べ、州内の当局に対し積極的な捜索・連行を指示しました。さらに3日には、州司法長官の見解を引用し、議員が「職務放棄」のために議席を失ったかどうかを地方裁判所が判断できると指摘。これにより、アボット知事が「迅速に空席を埋める権限が得られる」可能性があると警告しました。しかし、仮に民主党議員が排除されたとしても、新たな選挙を実施するには一定の時間を要することになります。別の手段として、アボット知事は、欠席している議員が1日500ドルの罰金を支払うために資金を募った場合、賄賂法に違反する可能性があるとも警告し、多方面からの圧力をかけています。
テキサス州のアボット知事。州議会での選挙区再編案を巡る政治対立の渦中に立つ。
民主党とホワイトハウスの反応
テキサス州下院民主党議員団の議長を務めるジーン・ウー氏は4日、ロイター通信に対し、「われわれはみなさん(州民)を守るために行動しているのに、知事は逮捕すると脅しているのだ」と述べ、アボット知事の強硬な姿勢に反発する意向を示しました。
一方、ホワイトハウス関係者はロイターに対し、トランプ前大統領がアボット知事による民主党議員排除の動きを支持しており、「必要なことは何でもやる」よう求めていると語りました。これは、連邦レベルでの共和党の政治戦略が、テキサス州の区割り問題に深く関与していることを示唆しています。
選挙区再編の背景と他州の動き
米国の各州は、10年ごとに実施する国勢調査に基づいて選挙区の区割りの再編が義務付けられています。これは人口変動を反映させ、各選挙区の有権者数を公平にするための措置です。しかし、現在のテキサス州の区割りは、共和党が多数を占める州議会で4年前に制定されたばかりであり、中間期での再編は異例の事態です。通常、中間期に区割り再編が行われるのは、議会の権力構成が大きく変化した場合に限られます。
テキサス州での共和党の動きに対抗し、カリフォルニア州やイリノイ州のような民主党主導の州では、自州の選挙区を再編し民主党の議席を増やす案が浮上しています。カリフォルニア州のニューサム知事は、民主党議員が職務を怠っているというアボット知事の主張に強く反論し、トランプ前大統領と共和党が政治システムを悪用していると非難しました。「彼らはルールを守らない。既存のルールで勝てないならルールを変えるだろう。それがトランプのやっていることだ」と述べ、テキサス州の動きが民主主義の根幹を揺るがしかねないという懸念を表明しました。
テキサス州を舞台としたこの政治的対立は、単なる州レベルの区割り問題に留まらず、次期中間選挙、さらには米国の政治地図全体の行方を左右する重要な局面として注目されています。各党の戦略と、それが民主主義のプロセスに与える影響について、今後の動向が引き続き注視されるでしょう。
参照元:
- Reuters