7月31日、警視庁は風俗店の店長を脅迫したとして、国内最大規模のスカウトグループ「ナチュラル」のメンバーとみられる男2人を逮捕したと発表しました。この事件は、6月の改正風営法施行により、「スカウトバック」が禁止されたことを背景に、風俗店側がナチュラルとの関係を断とうとしたことが発端とされています。
改正風営法と「スカウトバック」禁止が引き起こした脅迫事件
逮捕されたのは、いずれも職業不詳の渡辺尚人容疑者(28)と南雲直哉容疑者(28)です。2人は2月6日、仲間と共謀し、風俗店の事務室に押し入り、店長(40代)に対し「うちの組織でかいの、わかりますよね」「スカウトマン連れて全員で店、行きますよ」「命かけて刑務所行く奴だっているし」などと集団的脅迫を行った疑いが持たれています。
この風俗店グループは、改正風営法によって女性の紹介料としての「スカウトバック」が禁止されることを受け、ナチュラルに対して関係断絶と支払拒否を申し入れていました。この申し出に腹を立てた容疑者らが、系列店の店長を脅迫したとみられています。現在、両容疑者はいずれも黙秘を続けているとのことです。
送検された渡辺容疑者の素顔と「ナチュラル」の巨大な実態
8月1日、送検のため浅草署の護送口に姿を現した渡辺容疑者は、一見すると若手のビジネスパーソンのような顔立ちでしたが、半袖シャツからのぞく首と両腕にはびっしりと入れ墨が入っており、その印象は大きく変わりました。体格もがっしりしており、報道陣の視線にも一切表情を変えることなく歩いていたと報じられています。
風営法改正で抵抗する「ナチュラル」渡辺尚人容疑者の送検:大規模スカウトグループ摘発の現場
渡辺容疑者らが所属するとみられる「ナチュラル」は、国内最大規模を誇るスカウトグループです。歌舞伎町をはじめ全国の繁華街で活動し、メンバーは1000人から2000人に上るとされています。昨年だけでも50億円を売り上げたとされており、警視庁はこの組織を「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」として特定し、警戒を強めてきました。彼らの活動は、社会の裏側で広がる組織犯罪の一端を示しています。
鉄の規律と恐怖支配:「ナチュラル」のピラミッド型組織
『FRIDAY』誌は、2025年4月4・11日号で、ナチュラルの内部資料やメンバーが日常業務で使用する「闇アプリ」の存在について報じていました。その資料によって明らかになったナチュラルの組織構造は、企業を思わせるほどの厳格なピラミッド型です。
組織の頂点には「会長」が君臨し、その下に4~5人の「執行役員」、約20人の「代表/専務」が続く「本社組織」が存在します。本社には、警察対策を担う「防衛部」のほか、「集金課」「契約課」「総務課」「経理課」といった部署があり、総勢100名ほどが所属しているとされています。
その下には、赤・青・緑・白などに色分けされた現場グループが存在し、各グループは約20人の「本部長」と「部長」が「社員」たちを統括しています。このように、少数のトップが多数の構成員を支配する強固な組織統制が確立されていました。
巨大な組織を維持しているのは、そのアンダーグラウンドな性質ならではの「鉄の規律」です。ナチュラルでは、通常のスカウト業務だけでなく、私生活にまで細かなルールが設けられており、違反者には罰金が科せられます。現役メンバーの一人が『FRIDAY』2025年4月18日号で語ったところによると、罰金は軽微な違反で1万円から、重大なものには数百万円に達することもあるといいます。原則として翌月の給料から天引きされますが、罰金が給料を超える場合、給料は支給されず、逆に借金として積み上がります。この借金がある限り、組織を辞めることは許されず、実際には無給で働き続けさせられるケースもあったとされています。
さらに、罰金制度だけではなく、暴力による「恐怖支配」も日常的に行われています。ナチュラルは2023年、グループの資金を着服したとされるメンバーに対し、フライパンで殴打するなどの暴行を加えて重傷を負わせる事件を起こしています。前出の現役メンバーによれば、公になっていない制裁は日常茶飯事であり、組織内で「見せしめ」として行われているとのことです。
「トクリュウ」対策の強化と「ナチュラル」の頑強な抵抗
国は、スカウトグループをターゲットに風営法を改正するなど、「トクリュウ」と見なされるこれらの組織への対策に本腰を入れてきました。ナチュラルに次ぐ勢力だったとされる「アクセス」は、今年6月までに主要幹部ら12人が逮捕・起訴され、大きな打撃を受けました。ナチュラルでも2023年11月に、幹部の一人とみられる男が逮捕されています。
しかし、ナチュラルは、前述の「防衛部」による警察への情報収集や、厳しい内部統制によって、依然として組織が健在であるとみられています。
最近では、7月16日までにナチュラルの大阪エリアの責任者とみられる男ら4人が、女性2人を性風俗店に紹介した職業安定法違反の疑いで逮捕される事件がありました。しかし、この事件では拠点の捜索に当たった捜査員2名がナチュラルメンバーの20代男性の顔を殴るなどして逮捕される事態に発展。捜査時の違法行為があったとして、先に逮捕されていたメンバー4人は釈放されるという異例の展開を見せました。
終わりに:法改正が進む中での「ナチュラル」包囲網
今回の改正風営法による「スカウトバック」の禁止は、風俗業界とスカウトグループの関係に大きな変化をもたらすでしょう。冒頭の事件のように、ナチュラルとの関係を断とうとする風俗店は今後ますます増えることが予想されます。
一方で、鉄の規律と暴力で組織を維持し、情報収集や内部統制によって警察の追及をかわそうとする「ナチュラル」の頑強な抵抗は続いています。国を挙げた「トクリュウ」対策が進む中、日本社会の闇に潜むこの巨大なスカウトグループへの包囲網は、徐々に、しかし確実に狭まっているのが現状です。
参考文献
- FRIDAYデジタル (2025年8月7日). 「関係を断とうとした風俗店店長を恫喝」.
https://news.yahoo.co.jp/articles/a40488df8bff44e5951dcff32760040db42bb08