高橋洋一氏が指摘する「消費税と社会保障のまやかし」:年金・医療・介護の真実

先の参議院選挙では、主要な争点の一つとして野党が「消費減税」を掲げました。これに対し、与党側は消費税の引き下げは「社会保障の削減につながる」と強く主張し、両者の間で激しい議論が交わされました。しかし、この「消費税と社会保障は不可分である」という政府の主張は、果たして真実なのでしょうか。元大蔵・財務官僚であり経済学者でもある高橋洋一氏は、この論理を「一種の脅し」であると断じています。本稿では、高橋氏の著書から、社会保障制度と消費税の関係性について詳しく見ていきます。

「消費税は社会保障に充てるもの」という誤解

消費税をめぐる議論で頻繁に耳にするのが、「社会保障と一体的な議論を」というフレー点です。国民民主党が提唱した時限一律5%の消費税引き下げ案に対しても、「消費税を減らせば社会保障を削るつもりなのか」という批判が当然のように出てきます。

高橋洋一氏は、これを「過去、何度も見てきた『脅し』」であり、「社会保障と消費税を結びつけるのは嘘のロジック」だと指摘します。その根拠として、コロナ禍において先進国38カ国のうち30カ国が消費税を減税した事実を挙げ、「社会保障の話と消費税は関係ない。社会保障の話を持ち出して消費税の減税に反対する日本のロジックは、世界の非常識だ」と強調しています。にもかかわらず、財務省が広めた「消費税は社会保障に充てるもの」というまやかしの説を、多くの国会議員や国民が真に受けてしまっているのが現状です。

社会保障制度は本来「保険方式」であるべき

財務省のロジックがなぜ「まやかし」で「嘘」なのか。増税を主張する人々は長年、「財政再建のために消費税を増税する」と主張してきました。しかし、「消費税率を上げても財政再建できない」「まず経済成長を図るべきだ」という議論や分析が広まるにつれて、その主張のメッキが剥がれつつあります。

そのため、彼らは「社会保障のため」という看板に付け替えるようになりました。「少子高齢化が進む中で社会保障財源が足りないから、消費増税をするしかない」という論理です。しかし、高橋氏は、年金、医療、介護といった社会保障の財源のために消費税を上げるというのも、ロジックとしておかしいと指摘します。これらの制度は基本的に、消費税のような「税方式」ではなく、「保険方式」によって運営されるべきだと主張しており、事実、世界のほとんどの国でこの方式が採用されています。日本の基本的な制度設計も、元々は保険方式に基づいています。

年金は「保険」であるという本質

医療制度が保険方式であることは広く知られていますが、年金については誤解されがちです。「年金は国からもらえるお金である」と考えている人も多いですが、年金は「年金保険」なのです。

高橋洋一氏の肖像。消費税と社会保障に関する政府の主張を経済学的視点から分析する専門家。高橋洋一氏の肖像。消費税と社会保障に関する政府の主張を経済学的視点から分析する専門家。

年金保険の基本的な発想は、健康保険と共通しています。健康保険が「病気にならなかった人のお金で、病気になった人を保障する」ものであるのに対し、年金保険は「早く亡くなってしまった人の保険料を、長生きした人に渡して保障する」という仕組みです。健康保険制度の下では、一生健康で一度も病院に行かなかった人が保険料を一切もらえないのと同様に、公的年金保険も、例えば65歳で亡くなった場合、一部の遺族年金を除けば、基本的には保険料は掛け捨てとなります。

突然の病気で収入の道が閉ざされる、あるいは退職後に収入がないまま長生きして将来の見通しが立たなくなる。これらは人生における「リスク」と言えます。さまざまなリスクに備えるために、皆で保険金を出し合い、互助の仕組みでリスクに直面した人々をカバーする。これが保険の根底にある考え方です。年金保険も「誰もが一律にもらえる給付金」ではなく、「保険料を納めた人が、納めた額に応じてお金を受け取れる」という点で、まさに「保険制度」なのです。

まとめ

経済学者の高橋洋一氏は、政府が主張する「消費税減税は社会保障の削減につながる」という論理が、根拠のない「まやかし」であると強く指摘しています。消費税と社会保障は本来切り離して議論されるべきであり、年金・医療・介護といった社会保障制度は、世界の多くの国と同様に「保険方式」で運営されるべきだという高橋氏の主張は、私たちに消費税と社会保障の本質的な関係について深く考えるきっかけを与えてくれます。国民一人ひとりが真の情報を理解し、適切な議論を進めることが、より良い社会の構築につながるでしょう。

参考文献

  • 高橋洋一 著『お金のニュースは嘘ばかり』(PHP新書)
  • 高橋洋一 著『「消費増税」は噓ばかり』(PHP新書)