昨今、注目が高まっている「動物行動学」について、わかりやすく学べる超入門書『君たちはなぜ、そんなことしてるのか? 東大准教授のひそやかな動物行動学講義』が発刊されました。
鳥や虫、魚、哺乳類、単細胞生物まで多種多様な動物の行動や生き方を取り上げながら、ファーブル、ローレンツ、ティンバーゲン、ドーキンスなど歴代の科学者たちの知の探究をわかりやすく教えてくれます。
本書から、一部を抜粋して紹介します。
■食われる前提で生きのびる
群れで逃げる小動物は、捕食者にターゲットを絞らせないことで捕食を失敗させている、という説明がなされてきた。これは確かに納得できる説なのだが、実際に野外で研究すると、その効果が明確ではない。捕食者は場合によっては、あっさりと狩りを成功させているからである。
これについて、キャロライン・ブライトンらは2022年の論文で面白い研究を発表している〈C.H.Brighton et al.2022.Raptors avoid the confusion effect by targeting fixed points in dense aerial prey aggregations.Nature Communications.13 Article number:4778(2022).〉。
タカがコウモリの群れを襲うとき、どうやらタカは特定の1匹を狙っているのではなく、群れの中の1点を狙って突っ込むようだ。そして、その衝突進路にたまたま乗っている相手が獲物になるのである。
目移りして失敗するくらいなら、いっそ当てずっぽうで突っ込んで誰かが照準に入るのを期待するほうがいい、という、まさかのアバウトな戦法である。
当然ながら捕食者に狙われる側は、必死に防衛しようとする。そして、捕食者は常にその上をいく。対策は巧妙なこともあれば力づくなこともあるが、動物が今日を生きのびようとすれば、絶対に必要なことだ。自分が餌を食べること、そして自分が餌にされないこと、これが絶対条件だからである。