中国政府による度重なる検閲とシーンカットにもかかわらず、最終的に国内での全面上映を禁じられた衝撃作、リー・ヤン監督の映画「盲山(ブラインド・マウンテン)」の全国拡大公開が決定しました。これに伴い、全国版ポスターと、映画が描く人身売買の実態を生々しく映し出す本編冒頭映像が公開され、その社会的メッセージと芸術性が改めて注目を集めています。
衝撃のあらすじと映画の背景
本作は、職を求めていた22歳の女子大学生、白雪梅(パイ・シューメイ)が主人公です。高収入の仕事を紹介するという若い女性に誘われ、遠く離れた山奥の村へと向かいますが、長い旅の末に眠りから覚めると、見知らぬ農家で横たわっていました。財布や身分証明書、手荷物全てを失い、紹介者の姿もどこにも見当たらない中で、彼女は村人から、40歳の独身男性・黄徳貴(ホアン・デグイ)の花嫁として売られたと聞かされ、自身が人身売買の犠牲になったことを悟ります。
プロデューサー、脚本、監督を兼任したリー・ヤンによるこの作品は、第60回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、その圧倒的なクオリティーと力強いラストシーンが高く評価されました。スリラー要素と冷徹な社会風刺が融合し、生々しく残虐性を帯びた描写は中国社会に大きな波紋を広げました。
盲山(ブラインド・マウンテン)の場面写真。人身売買の被害者となった主人公・白雪梅が山奥の村で絶望に暮れる様子が描かれている。
日本での異例のヒットと全国拡大公開
孤立した村で、村人たちの利己主義と警察の無関心により奴隷のような生活を強いられることになった白雪梅。月日が経ち、黄家が彼女への監視を緩め始めたことで、ついに家族との連絡に成功します。そして、待望の助けが現れた時、それは新たな悲劇の始まりに過ぎなかったのです。
日本ではシネマート新宿での限定公開が始まると、口コミで評判が広がり、連日満席を記録する異例のスマッシュヒットとなりました。当初1週間限定の予定が、熱い支持を受けて3週間へと異例の延長が果たされるなど、その問題提起と芸術性が高く評価されています。
このほど公開された本編冒頭映像は、鬱屈とした空気が漂う山奥の村から始まります。薬を売る仕事のためにやってきた主人公・白雪梅に村人たちが好奇のまなざしを向け、不穏な空気が漂う中、いつの間にか眠りについた白雪梅が目を覚ますと、自分が見知らぬ男の「嫁」として売られたことを聞かされます。「女はいつかみんな結婚する」と説得する女性の言葉は、この地に蔓延する「狂気」と、白雪梅がこれから辿る過酷な未来を予感させ、観る者に強烈な印象を与えます。
主要上映劇場情報
映画「盲山」は、9月5日よりアップリンク吉祥寺、Stranger(東京)、近日公開のシネマスコーレ(名古屋)、9月13日より第七藝術劇場(大阪)、9月12日より京都シネマ(京都)など、全国各地の劇場での拡大公開が決定しています。
- 東京: アップリンク吉祥寺、Stranger 9/5(金)~
- 名古屋: シネマスコーレ 近日公開
- 大阪: 第七藝術劇場 9/13(土)~
- 京都: 京都シネマ 9/12(金)~
※上映スケジュールなどの詳細は各劇場の公式ウェブサイトにてご確認ください。
結び
映画「盲山」は、単なるスリラー映画に留まらず、中国社会に深く根差す人身売買という深刻な社会問題を告発し、女性の尊厳と人権について問いかける作品です。検閲によって表現の自由が制限される中でも、そのメッセージの重要性は揺るがず、日本での異例の成功がそれを証明しています。ぜひこの機会に劇場で鑑賞し、本作が投げかける問いと、その芸術的な表現力に触れてみてください。