米国最大の心臓健康団体である米国心臓協会(AHA)は、かねてより待望されていた超加工食品の摂取に関するガイドラインを公表しました。この発表は、ロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉長官が主導する「米国を再び健康に(MAHA)」委員会の第2次報告書が間もなく公表されるというタイミングと重なります。MAHAの第1次報告書では、超加工食品が子どもの慢性疾患に与える影響が詳しく説明されており、今回の第2次報告書では、具体的な政策変更の提案が示される見込みです。この動きは、公衆衛生における超加工食品の問題への対策を強化する上で重要な節目となります。
超加工食品の健康への影響と米国心臓協会の主要メッセージ
米国心臓協会の主なメッセージは、多くの人々にとって予想通りでした。大半の超加工食品は、心臓の健康を含む人体に有害であるという内容です。協会は、食品業界によるこれらの食品の生産、および規制当局による承認を停止すべき時期に来ていると強く提言しています。これは、加工度の高い食品が引き起こす健康問題に対する、より厳格な対策を求める明確な姿勢を示しています。
「健康的」な超加工食品の限定的な存在
しかしながら、米国心臓協会が今回意外にも踏み込んだのは、「全ての超加工食品が体に悪いのか」という長年の議論の的となっていた問題です。米医学誌「サーキュレーション」に掲載された新ガイドラインの説明によると、必ずしも全てが有害なわけではないとしています。報告書は、「特定の全粒粉パン、低糖ヨーグルト、トマトソース、ナッツや豆をベースにしたスプレッド」など、ごく一部の選択肢は健康的である可能性があると指摘しています。しかし、これらの「健康的」とされる超加工食品についても、その状態が持続するかどうか継続的に確認する必要があるとも付け加えています。
今回の結果について、報告書執筆グループの副委員長を務めたスタンフォード大学の医学教授、クリストファー・ガードナー氏は「喜ぶ理由にはならない」と語っています。ガードナー氏は「砂糖や塩、脂肪だらけの大多数の超加工食品より少しだけ健康的なものがあるからといって、業界を免責すべきではない」と指摘し、安易な判断を戒めています。
専門家が警鐘:過剰摂取と添加物の問題
クリストファー・ガードナー氏は、スタンフォード予防研究センターの栄養研究グループを率いる専門家です。同氏は、「塩や砂糖、脂肪の摂りすぎが有害だという証拠は山のようにある。これはジャンクフードの時代から分かっていたことだ」と、長年にわたる栄養学の知見を強調しました。しかし、現代の状況はさらに複雑化していると警鐘を鳴らします。
「現代のジャンクフードは見た目を良くする添加物で超加工されており、これが過剰摂取や膨大な健康問題につながっている。それこそが問題だ。もっと対策に力を注ぐことはできないか」とガードナー氏は述べ、食品業界における添加物の使用が、消費者の食行動と健康に深刻な影響を与えている現状を訴えました。米国心臓協会のガイドラインは、医療の専門家や政策立案者から高く評価されており、多くの専門家の間で、超加工食品の問題に取り組むのにこれ以上のタイミングはないとの声が上がっています。
米国心臓協会が注意喚起する超加工食品と健康への影響を示すイメージ
米国における超加工食品消費の現状と深刻な健康被害
超加工食品が公衆衛生上喫緊の課題であることが、最近のデータによって裏付けられています。米疾病対策センター(CDC)が7日に公表した新データでは、1歳以上の米国人の1日の摂取カロリーの55%を超加工食品から摂取していることが判明しました。この割合は、1~18歳の子どもでは62%に跳ね上がっており、特に若年層での依存度の高さが浮き彫りになっています。
米国心臓協会の報告書は、これらの数字を「憂慮すべき」ものだと指摘しています。これまでの多数の研究結果から、超加工食品の摂取と心臓発作、脳卒中、2型糖尿病、肥満、そして全死因死亡率との間には、摂取量に比例した用量反応関係があることが明確に示されています。
例えば、昨年2月に発表された、1000万人近くを対象とした45件のメタ分析のレビューによると、超加工食品を1日1食多く摂取するだけで、心血管疾患関連の死亡リスクがおよそ50%高まることが示されています。さらに、超加工食品の摂取量の増加は、肥満リスクを55%、睡眠障害を41%、2型糖尿病の発症を40%、うつ病のリスクを20%それぞれ増加させる可能性も指摘されており、その健康被害の範囲は広範にわたります。
結論
米国心臓協会が発表した超加工食品に関する新ガイドラインは、単なる食生活のアドバイスを超え、公衆衛生政策の転換点となる可能性を秘めています。大半の超加工食品が健康に有害であるという明確なメッセージに加え、わずかに存在する「健康的」な選択肢にも慎重な目を向けるよう促しています。クリストファー・ガードナー氏をはじめとする専門家たちの指摘は、添加物が現代のジャンクフードの過剰摂取と健康問題の根源にあることを浮き彫りにし、より積極的な対策の必要性を示唆しています。CDCのデータが示す超加工食品の驚くべき消費実態と、それが引き起こす心臓疾患、肥満、糖尿病、精神疾患などの深刻な健康被害を鑑みると、この問題への取り組みは待ったなしの状況です。今後のMAHA委員会の政策提言を含め、超加工食品に対する社会全体の意識と規制がどう変化していくか、注視していく必要があります。
参考文献
- CNN. 米国心臓協会が超加工食品の摂取に関する待望のガイドラインを公表した. Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/articles/82240fdb0f303ec7147a87699d9475e27c281a50
- 米国心臓協会 (American Heart Association) 公式サイト
- 米国を再び健康に(MAHA)委員会 報告書
- 米国疾病対策センター (CDC) データ