トランプ関税交渉の裏側:日本経済への影響と世界各国の攻防

ドナルド・トランプ政権が仕掛けた関税交渉において、日本の自動車関税に関する妥結内容は、日本経済にとって決して小さくない痛手であることは否めません。しかし、この「関税攻撃」に晒されたのは日本だけではありませんでした。世界各国が同様の圧力に直面する中、日本の交渉結果は他国と比較してどのような評価が下されるのでしょうか。

トランプ関税の「相互」とは名ばかり:世界が受けた不当な圧力

国際政治学者の鶴岡路人慶應義塾大学教授は、トランプ政権下の関税政策について「めちゃくちゃなトランプ関税によって世界中がアメリカにまんまとしてやられた」と厳しく指摘しています。本来「相互関税」と称されながらも、その実態は、米国が自国の貿易赤字削減を目的に、相手国に対し一方的な関税措置をちらつかせて脅すものでした。日本の自動車を例に取ると、それまで2.5%だった関税をいきなり約30%に引き上げると脅迫され、最終的には15%まで引き下げられたものの、これを「喜ぶべき」結果と解釈することはできません。この15%という数字は、本来支払う必要のなかった追加コストであり、日本企業にとっては依然として重い負担です。

米国市場への依存:経済と安全保障の代償

しかし、日本を含むどの国にとっても、巨大な米国市場は極めて重要であり、米国からの関税引き上げの脅しを放置することはできませんでした。どんなに理不尽な要求であっても、交渉のテーブルに着く他なく、関税の引き下げを求めるためには何らかの「お土産」を米国に差し出すしか選択肢がありませんでした。各国の交渉担当者は「いかにダメージを最小限に抑えるか」という発想で対応せざるを得なかったのです。

日米貿易交渉の過程で会談するドナルド・トランプ大統領と石破茂首相日米貿易交渉の過程で会談するドナルド・トランプ大統領と石破茂首相

さらに、日本やヨーロッパの指導者および交渉担当者の脳裏には、安全保障への影響もよぎったはずです。トランプ大統領を怒らせて同盟関係が弱体化すれば、それは経済的な打撃に加えて、安全保障上の大きな問題を引き起こしかねません。この状況は、長年にわたり経済面でも安全保障面でも米国に依存してきた代償を、各国が支払わされているとも言えるでしょう。

主要国との交渉比較:日本の位置づけ

では、こうした状況下で日本が妥結した関税の評価は、他国と比較してどうなのでしょうか。2025年5月に関税率10%で早期に合意したイギリスを例外とすれば、日本は主要な貿易相手国の中で、米国との合意を比較的早く発表した国の一つとなりました。その後に妥結したEUとの合意内容を見る限り、「関税率15%+対米投資」という日本のパッケージは、他国との交渉における一種のモデルケースとなったと言えそうです。

一方で、日本とほぼ同時期に合意に至ったインドネシアやフィリピンは19%、ベトナムは20%と、日本よりも高い税率での妥結を余儀なくされました。さらにこれらの国々は、米国製品に対する関税をゼロにする「非課税での市場開放」という条件も受け入れており、日本に比べて一層厳しい内容となっています。この比較から見れば、日本は決して満足のいく結果ではないものの、他のアジア諸国と比較すると、より巧みに交渉を進め、ダメージを抑制できたと言えるかもしれません。

結論

トランプ政権下での関税交渉は、日本経済に少なからぬ負担を強いるものでしたが、同時に国際貿易における米国の影響力と、各国が抱える米国市場および安全保障への依存を浮き彫りにしました。日本は他の多くの国と同様に不当な圧力に直面しながらも、結果的には一部の国々よりも比較的穏当な条件での妥結に至ったと言えます。この経験は、今後の国際政治経済における各国の交渉戦略や、国家間の相互依存関係のあり方を再考する重要な契機となるでしょう。

参考文献