ルーシー・グオ氏は、常に目まぐるしいスピードでキャリアを駆け上がってきた女性起業家です。日の出前にトレーニングをこなし、電動スクーターを駆って街を駆け巡るその行動力は、彼女のプロフェッショナルな成功が自身のスピード感に呼応するように加速してきたことを示しています。今年5月、弱冠30歳にして歌手のテイラー・スウィフト氏を抜き去り、「世界最年少で、自力で資産を築いた女性ビリオネア」の称号を手にしました。その総資産は13億ドル(約1948億円)に上り、その大半は人工知能企業「スケールAI(Scale AI)」における約5%の持ち株に由来しています。
ルーシー・グオ氏のポートレート。30歳で自力で資産を築いた世界最年少女性ビリオネア。
異色のキャリアパスとスケールAIでの飛躍
過去10年間で、ルーシー・グオ氏は数々の輝かしいキャリアを築き上げてきました。ペイパル共同創業者で著名な投資家ピーター・ティール氏による若手起業家育成プログラム「ティール・フェローシップ」に選出されたことを皮切りに、ソーシャルメディア大手スナップチャット(Snapchat)で初の女性デザイナーとして活躍。その後、革新的な人工知能企業であるスケールAIを共同創業しました。
スケールAIは、AIの学習に必要なデータセットの準備をサポートする企業として急成長を遂げ、2019年にはファウンダーズ・ファンドから1億ドルの出資を受け、ユニコーン企業となりました。グオ氏はこの企業で重要な役割を担い、その後の彼女の莫大な資産形成の基盤を築きました。スケールAIを離れた後、彼女は自身のベンチャーキャピタルを立ち上げ、さらに新たなソーシャルネットワーキングサービス「パッシーズ(Passes)」のローンチへと繋がっていきます。
クリエイター経済を変革する「Passes」の戦略
グオ氏がスケールAIを離れてから数年後の2022年、満を持してローンチされたのが「パッシーズ」です。このプラットフォームは、クリエイターがファン向けのコンテンツを収益化するための新しい形を提供します。サブスクリプション、ライブ配信、1対1の分単位での通話、有料メッセージ、さらにはECストア機能など、多様な収益化手段をクリエイターに提供しています。
パッシーズが掲げる「すでにオーディエンスは作った。次はファンベースで稼ぐ番だ」「パッシーズはミリオネアを生み出す──次はあなたの番」というスローガンは、クリエイターの経済的自立を強力に支援する姿勢を表しています。その最大の武器は、業界トップクラスの収益分配率です。パッシーズでは、クリエイターが収益の最大90%を手元に残すことができ、プラットフォーム側の取り分はわずか10%に加えて、1件あたり30セントの決済手数料のみとなっています。
この分配率は、競合他社と比較して圧倒的な優位性を持っています。例えば、オンリーファンズ(OnlyFans)のクリエイターは収益の80%しか受け取れず、パトレオン(Patreon)では8〜12%の手数料に加えて出金時の手数料も差し引かれるため、実質的に15〜20%が引かれるケースが多いとされます。パッシーズは主にオンリーファンズの代替サービスとして位置づけられていますが、グオ氏自身も、大衆文化の影響によりパッシーズが独自の立ち位置を確立することの難しさを認識しています。
成功の秘訣と未来への展望
ルーシー・グオ氏の成功は、彼女の驚異的な行動力、先見の明、そしてクリエイターエコノミーにおける市場のニーズを的確に捉えたビジネスモデルの構築能力に集約されます。スケールAIでの経験が彼女の資産の大部分を形成し、その後に立ち上げたパッシーズは、クリエイターがより多くの収益を得られる公平なプラットフォームを提供することで、既存のサービスとの差別化を図っています。
30歳という若さで自力でビリオネアとなった彼女の軌跡は、現代のテクノロジーとクリエイティブな分野が持つ無限の可能性を示しています。ルーシー・グオ氏の今後の動向、そしてパッシーズがクリエイター経済にどのような変革をもたらしていくのか、世界中から注目が集まっています。