悲しみとALS:妻を支え続けた夫「板さん」の献身的な介護

都内でひとり暮らしをする「板さん」(70歳)は、週1回ヘルパーとして働きながら、ある山での作業に精を出しています。愛する妻と愛犬を立て続けに亡くした彼は深い悲しみに暮れましたが、40年前に520人が犠牲となった「御巣鷹の尾根」での活動が前を向くきっかけとなりました。

北海道出身の板さんは、上京後東京で営業職に就きました。最初の結婚で二人の息子をもうけるも、仕事多忙で離婚に至ります。その後、医療関係の職場に転職し、8歳年下の恭子さんと出会い、板さんが49歳、恭子さんが41歳の時に結婚。愛犬「はな」を迎え、恭子さんの実家で生活を始めました。恭子さんの生きがいは、はなとの散歩やチェロの演奏でした。また、孤独や不安を抱える人々の話を聞く「いのちの電話」の相談員も務め、「熱心に相談を聞いてはヘトヘトになり、『ハグして』と寄り添ってきた」と板さんは語ります。

妻の恭子さんに寄り添い、優しく抱きしめる板さん。ALSとの闘いにおける夫婦の絆と愛情を示す瞬間。妻の恭子さんに寄り添い、優しく抱きしめる板さん。ALSとの闘いにおける夫婦の絆と愛情を示す瞬間。

ALSの宣告と闘病生活

結婚から10年後の2015年秋ごろ、恭子さんに異変が生じ、袋を手で開けられなくなるなど手足の不調を訴えるようになりました。そして2016年4月、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されます。ALSは、手足や喉、呼吸に必要な筋肉がだんだんやせてしまう病気です。

呼吸器を巡る決断と献身的な介護

ALSと診断されてから自宅での看病が始まり、病状の進行に伴い呼吸器の装着が迫られました。しかし恭子さんは、呼吸器を付けないと決断していました。板さんは「生き延びてほしかったが、呼吸器を付けないと決めた彼女は聞かなかった」と語ります。恭子さんは、吸引や排泄、食事の介助など、家族に負担をかけ続けることを申し訳なく思っていたようです。

板さんが直面したALSとの闘いと、妻への献身的な介護は、計り知れない重圧と悲しみを伴いました。深い喪失の中で、この経験は家族の絆と支えの重要性を示唆しています。

参考文献