2025年8月15日、終戦から80年を迎えるこの日、高畑勲監督によるスタジオジブリ映画『火垂るの墓』が7年ぶりに日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送されます。野坂昭如の同名小説を原作とする本作は、神戸大空襲で母親を亡くした14歳の少年・清太と4歳の妹・節子が辿る悲劇的な運命を描き、戦時下の厳しい現実と人間の尊厳を深く問いかける作品として、多くの観る者に強烈な印象を与えてきました。この節目に際し、高畑監督が作品を通して私たちに何を問いかけたかったのか、その真意を探ります。
『高畑勲展』から読み解く『火垂るの墓』創作の真意
高畑勲生誕90年を記念し、2025年9月15日まで麻布台ヒルズ ギャラリーで開催中の『高畑勲展 -日本のアニメーションを作った男。』では、高畑監督の創作の軌跡が詳細に紹介されています。東映動画時代の『太陽の王子 ホルスの大冒険』や『アルプスの少女ハイジ』といった初期の傑作から、『火垂るの墓』、『平成狸合戦ぽんぽこ』、そして遺作となった『かぐや姫の物語』まで、貴重な資料が多数展示されています。
戦時下の神戸を描いた『火垂るの墓』の美しいセル画と背景画、清太と節子の運命を象徴する一枚
特に1988年公開の映画『火垂るの墓』のコーナーは広大なスペースが割かれ、イメージボードや原画、そして実際のセル画、ロケハン写真など、作品の根幹をなす資料群が展示されています。物語は、1945年の神戸大空襲で清太と節子の兄妹が母親を失い、出征中の父親を待つ中、遠縁の叔母の元に身を寄せるところから始まります。しかし、叔母からの冷遇に耐えかねた清太は妹と共に防空壕での生活を選びますが、食料が尽き、衰弱した節子は命を落とし、やがて清太もまた駅の構内で亡くなるという悲惨な結末を迎えます。
「今の子供たち」への問いかけ:幽霊シーンが示す高畑の意図
展覧会の解説文によると、高畑監督が『火垂るの墓』で最も重視したのは、主人公・清太の姿を公開当時の「現在の子供たち」と重ね合わせ、観る者に「未来に起こるかもしれない戦争」への想像力を養わせるという強い意図でした。この目的のために、原作小説には存在しない、清太と節子が幽霊として登場する印象的なシーンが加えられたとされています。
この幽霊の描写は、単なる悲劇の再現に留まらず、時代を超えて戦争の悲劇と教訓を現代の私たちに語りかける装置として機能しています。高畑監督は、過去の出来事としてではなく、「もし自分たちが同じ状況に置かれたら?」という問いを観客に投げかけることで、平和の尊さと、戦争がもたらす極限の苦難に対する深い理解を促そうとしたのです。
終戦80年という節目の年に、改めて『火垂るの墓』が放送されることは、単に映画を鑑賞する以上の意味を持ちます。それは、過去の悲劇を風化させることなく、未来に向けて戦争の愚かさと平和の重要性を再認識するための貴重な機会となるでしょう。高畑監督のメッセージは、今もなお、私たちの心に深く響き続けています。