「小浜・京都ルートありきではなく、米原ルートも比較検討したうえで判断すべきだ」。2024年7月下旬、大阪府の吉村洋文知事が定例記者会見で発言したこの言葉は、北陸新幹線の敦賀~新大阪間延伸計画を巡る議論に新たな波紋を広げています。現在、金沢~敦賀間まで開業している北陸新幹線は、太平洋側で大規模災害が発生した場合の東海道新幹線の代替ルートとしての役割も期待されており、東京から大阪まで結ぶ計画が進められていますが、最後の難関として残る敦賀以西のルート選定が長年の課題となっています。
北陸新幹線延伸計画の経緯と「小浜・京都ルート」の選定
北陸新幹線は1973年に整備計画が定められ、東京から長野、富山、金沢などを経由し大阪へ至る路線として位置づけられてきました。これまでに1997年の東京~長野間、2015年の長野~金沢間、そして2024年3月には金沢~敦賀間が開業し、残すは敦賀から新大阪までの区間のみとなっています。
敦賀~新大阪間のルート案としては、福井県小浜市と京都駅を通る「小浜・京都ルート」、敦賀から滋賀県の米原駅を経由し京都駅へつなぐ「米原ルート」、そして京都府舞鶴市を経る「舞鶴ルート」の3案が存在していました。2016年、与党のプロジェクトチームは移動時間の短縮効果などを理由に「小浜・京都ルート」の採用を決定し、2025年度の着工を目指していました。
「小浜・京都ルート」が直面する課題と白紙撤回要求
しかし、「小浜・京都ルート」の計画は、京都府内の大部分がトンネルとなることから、地下水への悪影響や発生する残土処理に関する懸念が強まり、地元の合意形成が困難な状況に陥りました。特に、2023年末には京都の約1千カ寺が加盟する「京都仏教会」が同ルートを「千年の愚行」と厳しく批判し、2024年に入ってからは計画の白紙撤回を求める事態に発展。これにより、事実上、着工は頓挫している状況です。
「米原ルート」再検討の動きと政治的背景
このような「小浜・京都ルート」の膠着状態の中で、再浮上してきたのが「米原ルート」です。2024年夏の参院選では、元アナウンサーで日本維新の会の新実彰平氏が「小浜・京都ルート」が抱える京都府内の地下水問題や莫大な財政負担を指摘し、「米原ルート再検討」を公約に掲げてトップ当選を果たしました。冒頭で触れた大阪府の吉村知事の発言も、この動きを受けたものです。さらに、同年8月上旬には、北陸新幹線建設促進石川県民会議が、「小浜・京都ルート」に関して年内に課題解決の目途が立たない場合、「米原ルート」を含めた検討を政府に求める決議を行うなど、米原ルートへの再注目が高まっています。
北陸新幹線延伸計画の起点となるJR敦賀駅に停車中の北陸新幹線E7系車両
「米原ルート」実現への最大の障壁:滋賀県の同意
一見すると「米原ルート」が現実味を帯びてきたように思えますが、鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は、その実現には大きな障壁があると指摘します。梅原氏は、「整備新幹線の建設には沿線のすべての自治体の同意が必要」であるとし、「米原ルートの場合は、滋賀県の同意が不可欠」だと強調。その上で、「政治家であろうが、誰が何と言おうと、滋賀県が認めない限り建設はできません。西九州新幹線のケースと同じです」と述べ、地元自治体の同意の重要性を訴えています。
結論
北陸新幹線の敦賀以西延伸計画は、「小浜・京都ルート」が環境問題や財政負担、地元合意の難しさから着工が困難な状況に陥り、「米原ルート」が政治的な背景から再検討の動きを見せています。しかし、整備新幹線の特性上、沿線自治体、特に滋賀県の同意がなければ「米原ルート」の実現も困難であり、現在の議論は依然として複雑な状況にあります。今後のルート選定においては、各自治体の意見調整と合意形成が鍵を握ることになるでしょう。
参考資料
- Yahoo!ニュース (2024年8月17日). 「北陸新幹線「米原ルート」再検討へ、吉村知事が言及…地元同意の壁」. https://news.yahoo.co.jp/articles/7264fce3b4e31f5d84fb132b2b9656612e9cfb81