韓国演劇界の光と影:トニー賞の栄光と深刻な賃金未払い問題

米演劇界の最高栄誉であるトニー賞において、韓国創作ミュージカル「Maybe Happy Ending」が作品賞を含む6部門を受賞し、韓国公演芸術界への世界的な注目が高まっています。しかしその華々しい成功の裏で、ソウル・大学路(テハンノ)に拠点を置く小規模劇団や制作会社を中心に、俳優やスタッフへの賃金未払い、不当待遇が深刻な問題として依然として存在していることが明らかになりました。業界の閉鎖的な構造が被害者にとって救済手段を困難にし、雇用当局による恒常的な労働監督の必要性が強く指摘されています。

世界的評価と国内の労働問題の乖離

トニー賞での快挙は、韓国の公演芸術が世界最高水準にあることを証明しました。しかし、その一方で、国内の演劇・ミュージカル俳優たちは、不安定な報酬体系に苦しんでいます。例えば、32歳の女性ミュージカル・演劇俳優は、3つの地域でそれぞれ2週間ずつ地方公演に参加したにもかかわらず、一部の出演料が2カ月間支払われなかったと証言しています。その額は約100万ウォン(約10万円)に上り、会社からの説明は「資金がない」の一点張りでした。この未払いの影響は彼女だけでなく、共演した他の3人の俳優にも及んでいるとされています。

韓国公演芸術界の舞台風景。トニー賞受賞作の成功の裏で深刻化する、演劇・ミュージカル俳優の賃金未払い問題。韓国公演芸術界の舞台風景。トニー賞受賞作の成功の裏で深刻化する、演劇・ミュージカル俳優の賃金未払い問題。

広がる不当待遇の実態:フリーランスから専業俳優まで

賃金未払いの問題は、フリーランスの俳優に限定されません。劇団に所属する専業俳優やスタッフにも同様の不当待遇が横行しています。具体的には、3カ月間の研修期間が無給であること、雇用契約書が作成されないこと、さらには1日あたりの公演に対して最低限の現金が封筒で手渡されるといった慣行が見られます。

韓国コンテンツ振興院が2024年に実施した調査結果は、この深刻な現状を裏付けています。調査によれば、文化芸術従事者の17.9%が賃金未払いを経験しており、そのうち実に65.4%は泣き寝入りせざるを得なかったと報告されています。また、報酬を得ずに作品に参加した経験のある従事者は21.1%に達するなど、構造的な問題が浮き彫りになっています。

業界の閉鎖性と被害者の困難

このような状況が改善されない背景には、韓国演劇界の閉鎖的な構造が挙げられます。ある30代の女性ミュージカル俳優は、5年前に賃金未払いのまま劇団で1年間働いた経験を語っています。当時、その劇団の演出家が手掛ける新作にフリーランスとして参加した際も、公演前日まで報酬に関する説明は一切なかったとのことです。

賃金を支払わない演出家が業界内で強固な地位を築き、「カルト的」な勢力となっているケースも少なくありません。これにより、俳優たちは自身の評判や今後のキャリアへの影響を恐れ、未払い問題を公に提起することが極めて困難であると口をそろえています。

解決への道:政府による常時的な労働監督の必要性

こうした長年にわたる不当な慣行を変革するためには、雇用労働省による先制的かつ常時的な労働監督が不可欠であるとの声が高まっています。公認労務士のハ・ウンソン氏は、労働監督の常態化こそが、個々人が通報による不利益を恐れることなく、事業主側も人件費の優先順位を高めるきっかけになると指摘しています。同氏は、「意識改革のための教育も重要だが、最も有効なのは行動で示すことだ。産業災害監督と同様に、賃金未払い監督の優先度を上げるべきだ」と強調し、行政の積極的な介入を訴えています。

韓国演劇界が世界から評価される一方で、内部に抱える労働問題は深刻です。公正な労働環境の実現は、持続可能な公演芸術の発展に不可欠であり、関係者と政府一体となった取り組みが求められています。


参照元:
KOREA WAVE/AFPBB News (c)news1