米ワシントン州に住むニュージーランド国籍の母親と6歳の息子が、カナダへの短期渡航中に生じた書類上のささいなミスが原因で、3週間以上にわたり米移民当局の収容施設に勾留される事態が発生しました。この事案は、米国の移民政策、特に合法居住者へのその影響に改めて注目を集めています。母親の弁護士がこの詳細を16日にCNNに明かしました。
合法滞在者の予期せぬ拘束
事の発端は、33歳のサラ・ショーさんが2021年から合法的に米国に居住していたにもかかわらず、故郷ニュージーランドの祖父母を訪ねる2人の子どもをカナダ・バンクーバーの空港まで送り届けた後の米国帰国時に起こりました。子どもたちが乗り継ぎなしで直行便を利用できるようバンクーバー経由を選んだショーさん親子は、米国への有効な入国書類を所持していましたが、ショーさんは米国からの出国および再入国を許可する旅行許可証の有効期限が切れていることに気づいていませんでした。ワシントン州ブレインの税関・国境警備局(CBP)の検問所で拘束され、事態は急展開しました。
人道的申請の却下と遠隔地への移送
弁護士によると、ショーさんは米国への入国と自宅への帰宅を認める「人道的仮釈放」を申請しましたが、これは却下されました。また、息子が有効な書類を持っていたため、ボーイフレンドや友人に息子を迎えに来させるよう求めたものの、これも拒否されました。結果として、ショーさんと息子は、自宅から約3200キロも離れたテキサス州ディリーにある移民収容施設に移送されることになりました。この措置は、人道的な配慮に欠けると批判されています。
米移民施設に拘束されたニュージーランド人サラ・ショーさんとその息子
「事務手続き上の軽微なミス」の影響
ショーさんは、就労許可証と渡航許可証を兼ねた「コンボカード」と呼ばれる書類に基づき米国に滞在し、ワシントン州でフルタイムの仕事に就いていました。彼女は6月に就労許可証の更新確認書を受け取った際、渡航許可も自動的に延長されたと誤解していました。弁護士はこれを「事務手続き上の軽微なミス」であったと指摘しています。ショーさんには前科が一切なく、安定した仕事、アパート、犬、そして新しいボーイフレンドがいるなど、米国で平穏な生活を送っていました。弁護士は、CBPにはショーさんを拘束する代わりに人道的仮釈放を認める裁量権があったにもかかわらず、その行使を怠ったことを「不必要で不適切、かつ非人道的だった」と強く主張しています。
収容施設の過酷な実態と人道的懸念
ショーさんの友人であるビクトリア・ベザンコンさんは、ショーさんが窮屈な収容施設で3週間を過ごし、「信じられないほどの孤立感」を感じていたとCNNに語りました。各部屋には5~6個の2段ベッドがあり、夜間は施錠されるという状況です。弁護士は、子どもたちには塗り絵程度の娯楽しかなく、テキサス南部の日中36度を超える猛暑の中で屋外に出る時間もほとんどない点を強調しました。同様に子どもと共に移民収容施設に収容された他の母親たちも、心に傷を負う体験を語り、子どもたちへの精神的影響を懸念しています。
このショーさんの拘束は、トランプ政権による移民取り締まり政策の新たな事例の一つと見なされています。政権は暴力犯罪者に的を絞った対策を掲げていたものの、本件のように合法的な居住者まで巻き込む結果となっています。
結論
今回のケースは、米国の移民システムにおける「事務手続き上の軽微なミス」が、いかに人々の生活を根底から揺るがし、非人道的な状況を生み出しうるかを示しています。サラ・ショーさんとその息子の勾留は、国境管理と人道的配慮のバランス、そして現行の移民政策が個人の人権に与える影響について、国際社会に再考を促すものと言えるでしょう。
参考文献
- CNN. (2025年8月18日). わずかな書類ミスで母子3週間拘束、米移民局の施設に. https://news.yahoo.co.jp/articles/da5d25d0ad4fec8f775b89e85253638933954be3