韓国・梨泰院での雑踏事故惨事の救助活動に従事した仁川(インチョン)消防本部の消防隊員が、深刻な精神的トラウマを抱え、約1週間にわたり行方不明となっていることが明らかになり、警察と消防当局が捜索を続けています。
失踪の経緯と捜索状況
仁川消防本部に所属する31歳の消防隊員Aさんは、家族や友人に「すまない」という内容のメモを残し、8月10日から連絡が途絶えました。Aさんの足取りが最後に確認されたのは、同日午前2時30分頃、高速道路の南仁川料金所でした。Aさんは料金所を通過した後、右側の路肩に車を停め、そこから姿を消したとされています。携帯電話の最後の信号は、仁川市南洞区西倉洞(ナムドンク・ソチャン ドン)にあるマンションの近くで捉えられました。
警察と消防当局は、Aさんの失踪届を受けて大規模な捜索活動を行っていますが、現時点では目立った成果は得られていません。Aさんの家族は、Aさんの安全を案じ、SNSや地域社会で情報提供を呼びかけるチラシを配布し、必死の捜索を続けています。
行方不明となった仁川の消防隊員Aさんの家族が作成し、配布している捜索を呼びかけるチラシ。梨泰院での救助活動後のトラウマが原因とされている失踪事案に対し、家族が必死に情報提供を求めている様子が伺える。
梨泰院惨事が引き起こした深刻なトラウマ
Aさんの家族は、自身のインスタグラムを通じて「(Aさんは)消防隊員として梨泰院惨事当時に班長として先頭指揮を執り、この経験が深刻なトラウマとなり、今回の失踪につながった」と説明しました。さらに、「Aさんの部屋からは、惨事直後に診断されたうつ病の診断書とうつ病治療薬が見つかった」と述べ、精神的な苦痛が失踪の背景にあることを示唆しています。
Aさん自身も、2023年のメディアインタビューで梨泰院惨事について語っており、「亡くなった方々を黒い区域に運び込むのだが、その区域で耐えられなくなった」と当時の状況を回顧しています。また、「自分の親は、私がその現場に行ってきたということだけでも苦しんでいるのに、犠牲者のご両親はどんな気持ちだろうか。『これが現実でなかったらいいのに』(と思った)」と、犠牲者やその家族への深い共感と自身の心の葛藤を明かしていました。
精神的ケアの重要性
この痛ましい失踪事件は、大惨事の現場で救助活動に従事する消防隊員やその他の緊急対応要員が直面する、目に見えない精神的負担の大きさを改めて浮き彫りにしています。彼らが経験するトラウマや精神的苦痛は、身体的な負傷と同じくらい深刻であり、適切なメンタルヘルスケアと社会的なサポートが不可欠です。Aさんの早期発見と安全を祈るとともに、このような状況に陥る人々への社会全体の理解と支援の拡充が強く求められます。