高市早苗氏の岐路:自民党支持者の評価と変化する経済政策の展望

将来の首相候補として注目される自民党の高市早苗議員(64)が、現在、複雑な政治的ジレンマに直面しています。昨今の政治情勢は、石破茂首相(68)が率いる自民党が参院選で大敗を喫し、衆参両院で少数与党に転落するという屈辱的な結果に終わったことから始まりました。これは、昨秋の衆院選、今年6月の東京都議選に続く3連敗であり、党内では旧安倍派を中心に「石破おろし」の声が強まり、総裁選の前倒し実施を求める動きが活発化しています。

政治的逆風:世論調査の乖離と「亜流」認識

こうした中で、次期総裁選の有力候補として高市氏の名前が浮上しています。時事通信社が8月8日から11日にかけて実施した世論調査では、「次期首相にふさわしい人物」として高市氏が全体で1位を獲得しました。しかし、この結果には興味深い側面があります。自民党支持者の間では、石破首相がトップに躍り出て、次点に小泉進次郎農相が続き、高市氏は3位に沈むという結果でした。

高市早苗氏の岐路:自民党支持者の評価と変化する経済政策の展望

石破茂首相(右)と総裁選に向け意欲を示す高市早苗氏。自民党内での権力構造と今後の総裁選を巡る駆け引きが示唆される一枚。

永田町関係者からは、「これは極めて興味深い結果だ。高市氏が持つ極端な保守的イメージを、自民党支持者自身が敬遠していることを示唆している。いつの間にか高市氏は、自民党の主流から外れ、『亜流』と認識されるようになってしまった」という見方が聞かれます。この認識は、高市氏が安倍晋三元首相のイズムを継承する立場でありながら、その「強み」がかつてほど絶対的ではなくなってきていることを裏付けています。

離党勧告への反発:橋下徹氏の提言と高市氏の信念

このような状況下で、橋下徹元大阪府知事がテレビ番組で高市氏に対し、暗に自民党からの離党を促す発言をしました。橋下氏は「自民党が割れるのは大賛成だ。保守なのかリベラルなのかごちゃごちゃになっている」と述べた上で、「高市さんが本当に覚悟を持って出るかどうかがポイントだ。高市さんは様々な場で中国に対し強硬な発言をしているが、もし本当にそれだけの勇気と覚悟があるのなら、自民党から同じ思想を持つ議員を引き連れて、参政党や日本保守党と組めばいい。しかし、高市さんはやらないだろう」と提言しました。

これに対し、高市氏は8月12日に自身のX(旧Twitter)で「勿論、『やんない』」と一蹴し、強く反論しました。さらに、「いわゆるバリバリの『親中派』以外は自民党を出ていけ…と言われているに等しい話だ」と、橋下氏の発言を党からの排除論と捉え、強い不快感を表明しました。故安倍晋三元首相の政治的遺産を継承することを自らの信条とする高市氏にとって、このような離党論が浮上すること自体が心外であったことは想像に難くありません。

経済政策の潮目:「高市=株高」イメージの変遷

高市氏の支持基盤を揺るがしているのは、政治的評価だけではありません。かつての最大の強みであった経済政策、特に「株高」のイメージにも変化の兆しが見え始めています。8月5日以降、日経株式市場は高騰を続け、13日には終値で史上最高値となる日経平均4万3274円を記録。さらに18日には4万3714円と、15日に続いて2営業日連続で最高値を更新するなど、市場関係者をも驚かせる連続高となりました。

市場関係者によると、「この高騰は海外投資家からの資金流入が激増していることに起因する。元々日本企業は過小評価されてきた。また、トランプ大統領との関税交渉も紆余曲折はあったが、石破政権がソツなく立ち回り、自動車関税を15%に引き下げる確約を得たことは及第点だろう。先行きが不透明な米国よりも、海外投資家は日本市場を『適温』と判断している」と分析しています。

これまで経済・株高といえば高市氏の代名詞でした。2021年の自民党総裁選では、安倍元首相の「アベノミクス」になぞらえて、金融緩和と財政出動を謳う「サナエノミクス」を提唱。昨年9月の総裁選でも「日本をもう一度、世界のてっぺんに」をモットーに、積極財政を強く訴えました。石破氏との決選投票時には、高市氏勝利による株高を予想した投資家が買いに走り、日経平均株価が急上昇する現象は「高市トレード」「高市ラリー」と呼ばれ、市場に浸透していました。しかし、決選投票で石破氏が総理に就任すると、週明け9月30日の日経平均株価は前日比1910円安と急落。「高市=株高、石破=株安」という市場のイメージは確立されたかに見えました。

しかし、直近の株価は絶好調です。それも「経済オンチ」と揶揄される石破政権下で起きていることは、二重の驚きを与えています。前述の市場関係者は、急激な値上がりで調整局面があるとしても、「引き続き強い流れを維持している」と見通します。

将来への課題:経済政策と首相への道

この株高に対し、永田町は非常にシビアな目を向けています。政治評論家の有馬晴海氏は、「永田町内では、この株高を石破首相のおかげだと思っている人はほとんどいませんよ。確かにトランプ関税交渉では、赤沢氏をはじめとする石破政権の努力が一定の評価はされています。しかし、結局は誰が交渉したとしても、日本の経済はトランプ大統領次第だということが明らかになったに過ぎない。そのため、評価する声も大きくないが、『石破首相だからダメだった』という強い反発も起こっていない。それが参院選敗北の責任論でも、『なんとなく辞めろ』という声は多いが、『絶対に辞めろ』となっていない現状に繋がっているのでしょう」と、自民党内の微妙な空気感を明かしています。

さらに、前出の市場関係者は、「むしろ最近の市場は、『高市ラリー』を警戒する動きになっている。このタイミングで高市氏が提唱するような積極財政に舵を切ると、物価高が加速し、国の借金が膨らむ可能性がある。外国人投資家は国の借金を示す国債価格に非常に敏感だ。高市さんだから『上がる』とは言えない状況になっている」と、市場の新たな分析を加えています。

自慢の経済政策に疑問符がつくようでは、高市氏は文字通り「片翼をもがれた」ようなものです。憲政史上初の女性首相を目指す高市氏にとって、前途は依然として厳しい闘いが続くでしょう。


参考文献:

  • FRIDAYデジタル
  • 時事通信社 (世論調査に関する情報源として)