8月、中国のSNSでは「涙が止まらず、しばらく立てなかった」「日本と手を取り合うことはできない」といったコメントが多数投稿され、日本の対中感情にも大きな波紋を広げています。2025年8月15日、先の大戦の終戦から80年を迎えるにあたり、日本では当時を知る人々の証言や平和への願いを込めた報道が続く一方、中国は「抗日戦争勝利80年」と位置づけ、国威発揚を目的とした宣伝を強化しています。その中心にあるのが、日本への反日感情を刺激する複数の映画作品です。
「南京写真館」の大ヒットとプロパガンダ利用の実態
大手紙国際部記者によると、中国では例年この時期に反日感情が高まる傾向がありますが、終戦80年という節目を迎える今年は特にその動きが顕著です。7月下旬に公開された旧日本軍による南京事件を扱った映画『南京写真館』は、公開直後から興行収入が23億元(約470億円)を突破し、この夏の記録的な大ヒットとなりました。
この映画は、旧日本軍が占領する南京にある写真館を舞台に、日本人による“虐殺”の証拠となるネガフィルムを中国人が命がけで守るというストーリーです。物語性は持ち合わせているものの、残虐な描写が殊更に強調されている点が指摘されています。旧日本兵が中国人を焼殺したり、袋に入れて殺害するなど、様々な方法での殺害シーンが詳細に描かれており、中には日本兵が乳児を地面に叩きつけるような描写も含まれています。これらの過激なシーンが切り取られ、SNS上で拡散され、大きな炎上を巻き起こしています。
中国で公開された「731」映画のポスターと、ハルビン郊外にある旧日本軍731部隊跡地の石碑。反日感情を高める映画の内容を示す。
国営新華社通信は「この映画を見た5歳の女の子が将来軍に入ると発言した」と報じるなど、愛国心の高揚に利用されている側面が強いです。映画を鑑賞した中国の子供たちの「怒り」「涙」「沈黙」といった反応を捉えたショート動画も広く出回り、それがさらに大人たちの感情にも影響を与えています。この作品は日本では公開予定がないものの、オーストラリアや北米などの海外でも相次いで公開されており、国際社会における日本のイメージにも少なからず影響を与えることが懸念されます。
懸念される「731」部隊映画の公開と“最も敏感な日”
『南京写真館』以外にも、8月8日には戦争映画『東極島』が公開されるなど、中国では戦争をテーマにした映画が続いています。中でも、現地在住の日本人の間で特に危惧されているのが映画『731』です。この作品は、旧日本軍の731部隊が行ったとされる人体実験を扱っており、日本の戦争犯罪を告発するという趣旨が強く、予告編の段階から大きな話題を集めていました。
当初、あまりにも残酷な描写が多いことから、7月末の公開予定が延期された経緯があり、一部の日本メディアは日本への配慮ではないかとの期待を込めた記事を報じていました。しかし、結局のところ、この映画は“最も敏感な日”である9月18日に公開されることが決定しました。9月18日は、満州事変の発端となった柳条湖事件が発生した日であり、中国にとっては歴史的に極めて重要な意味を持つ日です。この日に公開されることは、歴史認識を巡る日中間の溝の深さを改めて浮き彫りにしています。
まとめ
中国における「反日映画」の連続した大ヒットは、終戦80年という節目に際し、歴史認識を巡る日中間のギャップが依然として大きいことを示しています。これらの映画が国民の愛国心を刺激し、特に若年層に強い影響を与えている現状は、今後の日中関係の動向に深く関わってくるでしょう。国際社会において、事実に基づいた情報発信と、多角的な視点からの歴史理解を促進することが、日本の国際的イメージを維持し、不必要な誤解を避ける上で極めて重要となります。
参考文献