ロシアによるウクライナ東部のドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州)割譲の提案が、国際社会で波紋を広げています。2025年8月15日、米アラスカ州でドナルド・トランプ元米大統領と会談したロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナ戦争終結の条件としてドンバスのロシア領化と前線凍結を提示したと報じられました。しかし、ドンバスは単なる領土ではなく、ウクライナの国家としての存続に直結する戦略的要衝であり、その割譲は軍事的にも極めて危険な悪手となるでしょう。
ドンバス地方の割譲が受け入れられない理由は明確です。第一に、現在のウクライナ軍はドンバスの大部分を依然として保持しており、持ち堪えることが可能です。第二に、この地域を明け渡すことは、ウクライナそのものの消滅に繋がりかねない致命的な選択肢となります。ウクライナ政府は一貫して、ロシアに占領された領土の放棄を拒否しており、憲法上も領土の割譲は認められていません。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「ウクライナ人は土地を占領者に差し出したりしない」と明言し、国民の強い意志を示しています。
ドンバス割譲提案の危険性:単なる領土問題ではない
ドンバス地方は、ドネツク州とルハンスク州から成り、かつてはウクライナ有数の工業地帯として知られ、ロシア語話者が多い地域でもあります。2014年のロシアによるクリミア半島占領後、両州では親ロシア派武装勢力が活動を活発化させ、ロシアは彼らを支援し、2022年秋には南部ザポリージャ州、ヘルソン州を含めた4地域の「独立」を一方的に宣言しました。
現在のウクライナ戦争において、ドンバスは最も激しい戦闘が繰り広げられてきた地域です。ドネツク州に位置するバフムト、アウディーイウカ、ポクロウシクなどの都市では、ロシア軍の執拗な攻撃により多大な犠牲者が出ています。ロシアは7月初めにはルハンスク州全域を掌握したと主張しましたが、西側の分析では、ウクライナがなおも一部地域を保持しているとされています。
戦略的要衝ドンバスの現状と攻防
ホワイトハウスでドナルド・トランプと会談するウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領。ウクライナ戦争終結に向けた議論の背景。
米国のシンクタンク「戦争研究所(ISW)」の分析によれば、今月時点でウクライナはドネツク州の約6500平方キロメートル、すなわち約4分の1を依然として維持しています。ISWは8月17日の発表で、「ドネツク州の残りをすべて制圧するには、ロシア軍は複数年にわたり、厳しい戦闘を繰り返す必要があるだろう」と結論付けました。
プーチン大統領がトランプ氏に対し、ロシアが本気を出せばドネツク全域を奪えると言ったとされる発言についても、ISWは誤りだと反論しています。2014年の侵攻開始以来、ロシアは一貫してドネツク制圧を試みてきましたが、いまだにその目標を達成できていないからです。また、ISWによると、南部ザポリージャ州とヘルソン州についても、ロシアが支配しているのはおよそ4分の3に過ぎません。
結論:ドンバスはウクライナの未来を左右する
ウクライナ東部のドンバス地方は、単なる地理的領域ではなく、ウクライナの主権と国家の未来を左右する極めて重要な「防衛線」です。ロシアによる割譲提案は、短絡的な平和を謳うものに聞こえるかもしれませんが、実際にはウクライナの国防体制を崩壊させ、さらなる侵攻を許す危険をはらんでいます。ドンバスが持ち堪えている現状と、ウクライナ国民の領土放棄を許さない強い意志、そして国際的な専門機関による分析は、この提案がいかに現実離れし、ウクライナにとって受け入れがたいものであるかを明確に示しています。ウクライナの領土保全は、国際法の尊重と地域の安定にとっても不可欠な要素です。
参考資料:
- 戦争研究所(Institute for the Study of War, ISW)の公開分析レポート
- ウクライナ大統領府の公式発表
- 各国の報道機関による関連ニュース記事
[Source link ](https://news.yahoo.co.jp/articles/6000b2d8fa20045979f4e2666f9a3994b6cdf086)