アフリカ開発会議(TICAD)に出席した国連のアントニオ・グテレス事務総長は、21日に横浜市で記者会見を開き、国際社会が直面する喫緊の課題に対し、日本のリーダーシップと国際協調の重要性を強く訴えました。世界各地で自国の利益を優先し、国際協調を軽視する傾向が強まる中、グテレス事務総長は「今まで以上に開発協力のチャンピオンである日本のリーダーシップが重要になっている。グローバルな課題に向き合うには、団結した行動が必要だ」と述べ、日本への期待を表明しました。
TICADの主要議題と平和構築の重要性
今回のTICADでは、平和構築、公正なグローバルガバナンスと金融、気候変動対策への投資、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現という四つの分野が議論の焦点となりました。グテレス事務総長は特に「平和の構築なくして開発を進めることはできない」と強調し、外交努力による紛争解決の不可欠性を力説しました。また、国連安全保障理事会や国際金融機関の改革にも言及し、過剰な融資によってアフリカ諸国が債務超過に陥るのを防ぐためには、大胆な救済策が不可欠であると指摘しました。これにより、国際社会全体の持続可能性を高める必要性が浮き彫りになりました。
アフリカ開発会議(TICAD)出席後、横浜での記者会見で手を振る国連のグテレス事務総長。
アフリカの持続可能な開発とデジタル格差
グテレス事務総長は、世界全体の再生可能エネルギー投資において、アフリカ大陸が受け取っているのはごく一部に過ぎない現状を問題視しました。これに対し、「資金と技術を投入し、再生可能エネルギーと製造業の基盤を大陸全体に築かなければならない」と述べ、アフリカの持続可能な成長に向けた具体的な投資の必要性を強調しました。加えて、深刻なデジタル格差を解消し、人工知能(AI)を活用した開発を後押しすることが、アフリカの将来にとって極めて重要であるとの認識を示しました。
日本の国際法遵守と「平和のメッセンジャー」としての役割
一方、グテレス事務総長は、ロシアによるウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザ地区での人道危機における日本の対応を高く評価しました。「日本は国連憲章に基づき、国際法を順守しながら解決を図ろうとしている」と述べ、国連安保理が機能不全に陥る中でも、日本が開発と対話を継続する姿勢を「平和のメッセンジャーだ」と位置付けました。これは、国際紛争が多発する現代において、日本の外交的貢献が持つ意味の大きさを物語っています。
核兵器廃絶への日本の貢献と世界の義務
また、被爆80年を迎えた広島や長崎にも言及したグテレス事務総長は、過去の訪問で被爆者の証言に深く感銘を受けたと明かし、「核兵器のない世界を実現するために闘うことが我々の義務だ」と強調しました。核不拡散と軍縮への日本の長年の取り組みが、国際社会全体の核兵器廃絶に向けた動きを牽引する重要な役割を担っていることを示唆しています。
結論
グテレス事務総長の今回の発言は、国際社会が複合的な危機に直面する中で、日本の国際協調への強いコミットメントとリーダーシップが、これまで以上に求められていることを明確に示しました。TICADでの議論を通じて、日本が平和構築、持続可能な開発、そして国際ガバナンスの強化において、引き続き積極的に貢献していく姿勢が期待されます。
参考資料
- 毎日新聞 (2025年8月21日)