2025年8月18日、ワシントンのホワイトハウスで行われたウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカのトランプ前大統領との首脳会談は、前回の険悪なムードとは一変し、和やかな雰囲気の中で幕を閉じた。この劇的な変化の裏には、ゼレンスキー大統領が着用した黒のジャケット、通称「勝負服」の存在があったと報じられている。この特別な衣装に込められたウクライナ人デザイナーの平和への深い思いと、その制作秘話に迫る。
2025年8月18日、ホワイトハウスでトランプ前大統領と会談するゼレンスキー大統領。黒いジャケット姿が会談の雰囲気改善に寄与したとされる。
「勝負服」が変えた会談の空気
前回の2月に行われた会談では、ウクライナの国章が刺繍された長袖シャツ姿だったゼレンスキー大統領に対し、トランプ氏は「着飾っているな」と皮肉を述べ、記者からも「なぜスーツを着ないのか」という質問が飛ぶなど、緊迫した空気が流れていた。しかし、今回の8月の会談では、同じ記者から「そのスーツ、とてもお似合いですね」と称賛の声が上がった。これに対しトランプ氏も、「私も同じことを言ったよ。前回スーツのことで攻撃したのは彼だね(笑)」と応じ、両者の間に笑顔が見られるなど、和解ムードが漂った。この「勝負服」が、会談の成功に大きく貢献した要素の一つとされている。
デザイナーが語る「平和への思い」と制作秘話
この黒いジャケットを手がけたのは、ウクライナ人デザイナーのビクトル・アニシモフ氏(61)。コメディアン時代のゼレンスキー氏が率いた劇団の衣装も担当するなど、20年以上にわたる盟友だ。ANNのオンラインインタビューに応じたアニシモフ氏によると、このジャケットは当初、8月24日のウクライナ独立記念日にゼレンスキー氏がスピーチで着用することを想定して制作されたものだった。2025年1月にデザインの構想が練られ、実際の制作は会談の3週間ほど前から始まったという。
アニシモフ氏は、「彼はこれまで緑色と黒色の服を着ていたから、独立記念日にふさわしい独自のものをと考えました。3年が経過した戦争の年数を表す3色目を加えることを思いついたんだ」と語った。彼は新たに紺色のジャケットを5日間で制作し、全く同じデザインで黒色のものも作った。ゼレンスキー氏は試着の結果、「フォーマルで中立的なスタイルだ」として黒色のジャケットを選んだ。
こうした経緯を経て、当初の独立記念日での着用予定は変更され、急遽ホワイトハウスでのトランプ大統領との首脳会談での「勝負服」に選ばれることになった。アニシモフ氏は最終的な手直しを行い、8月16日、ワシントンへ旅立つ直前のゼレンスキー氏のもとへ届けられたという。この一着には、デザイナーのウクライナへの深い愛情と、戦争の終結、平和への切なる願いが込められている。
参考文献