除草剤「ラウンドアップ」を製造・販売する日産化学(東京都中央区)は22日、SNS上での製品に対する事実無根のネガティブ投稿が企業の名誉を毀損するとして、複数の投稿者を相手に起こした損害賠償請求訴訟で、東京地方裁判所が投稿者への賠償命令を下したことを公表しました。企業がSNS上の誤った情報による誹謗中傷に悩まされるケースは増加傾向にあり、今回の判決が同様の悪質な投稿に対する強力な抑止力となるか、大きな注目が集まっています。
「ラウンドアップ」とは?安全性を巡る議論
ラウンドアップ(有効成分:グリホサート)は、1974年に米国で発売されて以来、世界150カ国以上で広く使用されている代表的な除草剤です。日本では1981年からモンサント社の日本法人が販売を開始し、2002年からは日産化学がその販売権を引き継ぎました。農業用途はもちろん、ホームセンターでも手軽に入手できる製品として知られています。その高い安全性と有効性により世界的な成功を収めた一方で、遺伝子組み換え(GM)作物との関連から、GM反対運動の文脈で批判の対象となることもありました。
沈黙を破り提訴へ:日産化学の決断
これまで日産化学は、事実と異なるネガティブなSNS投稿に対しては、反論することでかえって「炎上」することを恐れ、沈黙を保ってきました。しかし、今年の3月28日に訴訟に踏み切った背景には、SNSの影響力が飛躍的に増大したことがあります。同社の合庭朋之ラウンドアップ営業部長は、「SNSでの誹謗中傷に対しメーカーが対応しないことへの、ユーザーである農業生産者の不満が高まっていました。農業生産者が安心して製品を使える環境を整備するためにも、メーカーが前面に立ち、毅然とした対応を示すことが不可欠だと判断しました」と、今回の提訴に至った経緯を説明しました。
東京地裁が入る庁舎の外観。日産化学のラウンドアップSNS名誉毀損訴訟の判決が下された場所。
訴訟の経緯と東京地裁の判断
訴訟の対象となったのは、ブログやX(旧ツイッター)などで、ラウンドアップを「猛毒」「枯れ葉剤と同じ成分」などと、明らかに事実誤認に基づく書き込みをしていた投稿者たちです。日産化学は、匿名の投稿者に対しては発信者情報開示請求を通じてその身元を特定。その後、投稿内容が事実と異なることを説明し、削除に応じない場合には提訴の可能性があることを警告しました。この警告にも応じなかった複数の投稿者に対し、損害賠償を求めました。
同社は、和解金の支払いや誓約書の提出に応じた投稿者については訴訟を取り下げています。しかし、和解に応じなかった投稿者に対し、東京地裁は「科学的根拠に基づかずに製品の評価を不当におとしめる情報を発信することは、企業の名誉毀損にあたる」との判断を示し、損害賠償金の支払いを命じる判決を下しました。
まとめ
今回の東京地裁の判決は、SNS上での企業に対する事実無根の誹謗中傷が法的な責任を問われることを明確に示しました。日産化学が除草剤「ラウンドアップ」を巡るSNS上の名誉毀損で勝訴したことは、オンラインでの虚偽情報拡散に苦しむ企業にとって、今後の対応を考える上で重要な前例となるでしょう。この判決は、正確な情報発信の重要性と、デジタル空間における健全な言論形成への貢献が期待されます。