プリゴジン氏死後2年:ワグネルの変容とロシアのアフリカ戦略、新PMC「アフリカ兵団」の台頭

ロシアのプーチン政権に対し武装反乱を起こした民間軍事会社(PMC)「ワグネル」の創設者、エフゲニー・プリゴジン氏が航空機事故で死亡してから、本日で丸2年が経過しました。同氏の死後もワグネルはアフリカ各地でその影響力を維持しようとしていますが、ロシア軍は自らの統制下にある新たなPMCを投入し、ワグネルを代替することでアフリカでの影響力拡大を図る、戦略的な転換を進めています。この動きは、ロシアの対アフリカ政策における新たな局面を示唆しています。

ワグネルの興隆とプリゴジン氏の武装反乱

ワグネル創設者のプリゴジン氏は、2023年6月にウクライナ侵攻の最前線から突如としてモスクワへ進軍し、武装反乱を起こしました。しかし、同年8月には不審な墜落事故で死亡するという衝撃的な結末を迎えました。英国防省の報告によると、プリゴジン氏が率いたワグネルは最盛期の2023年頃には約5万人もの兵力を擁していたとされます。中東シリア、アフリカ西部マリなどの現地軍に対する傭兵活動や宣伝工作を担う見返りに、鉱山利権といった経済的利益を手中に収め、ロシアの非公式な先兵として中東・アフリカ地域への深い浸透を図ってきました。

ワグネルの勢力退潮と各地での撤退

プリゴジン氏の死後、ワグネルは数千人規模の勢力を維持してきたと見られていますが、最近ではその退潮が顕著です。現地からの報道によれば、これまで反政府勢力の掃討にあたっていたマリからは今年6月に撤退を完了しました。さらに、南部モザンビークでの現地軍への訓練プログラムも形骸化が進んでいます。中東シリアにおいては、かつてワグネルが支援していたアサド政権が昨年末に事実上崩壊したことで、その足場を失う結果となりました。これらの動きは、ワグネルの活動範囲と影響力が縮小している現状を明確に示しています。

新たなロシアの先兵「アフリカ兵団」の台頭

ワグネルに取って代わろうとしているのは、かつてワグネルと協力関係にあったロシア軍です。ロシア軍は、自らの統制下にあるPMC「アフリカ兵団」を立ち上げ、元ワグネル兵士を積極的に取り込むことで、アフリカにおける勢力拡大を進めています。アフリカ兵団は今年6月、ワグネルがマリからの撤退を発表すると即座に、「ロシアが拠点を失うことはない」と声明を出し、マリへの支援継続を表明しました。AP通信によると、ワグネルが政権警護を担当していた中央アフリカに対しても、ロシア国防省が今年に入って契約をアフリカ兵団に切り替えるよう要求しており、その存在感を急速に高めています。ただし、この交渉は現在停滞している模様です。

ワグネルとアフリカ兵団:能力とリスク許容度の違い

アフリカ兵団がワグネルの役割を完全に引き継ぐ上でネックとなっているのが、両者の能力とリスク許容度の違いです。独立性が高かったワグネルは、現地での戦闘に直接参加し、場合によっては「汚れ仕事」も厭わないことで知られていました。しかし、アフリカ兵団が主に提供するのは軍の訓練にとどまります。アフリカ兵団はロシア軍により近い存在であるため、ワグネルほどのリスクを取ることが難しいと見られています。このため、自ら血を流し、実戦に深く関与することで発揮されたワグネルほどの圧倒的な存在感を、アフリカ兵団がすぐに実現できるかどうかは依然として不透明な状況です。

結論

プリゴジン氏の死から2年が経過し、ワグネルは勢力を減退させつつありますが、ロシアは新たなPMC「アフリカ兵団」を通じてアフリカへの影響力維持・拡大戦略を継続しています。この戦略転換は、ロシアがより統制された形で海外における軍事・政治的影響力を確保しようとする意図を反映しています。しかし、ワグネルが持っていた独立性と実戦能力をアフリカ兵団がどこまで補完できるかは、今後のアフリカにおける地政学的な動向を左右する重要な要素となるでしょう。


参考文献: