現代社会において、パートナーとの出会いの場としてマッチングアプリが広く普及しています。しかし、近年、人間同士のマッチングに留まらず、生成AIが創り出す「恋人」との出会いを実現する新たな形式のアプリが注目を集めています。この新感覚のサービスは、特に特定の層からの支持を得て、静かに人気を拡大しています。
AI恋人アプリ「LOVERSE」とは?
2023年6月に「samansa(サマンサ)」としてローンチし、現在は「LOVERSE(ラヴァース)」として運営されているこのマッチングアプリは、数千人もの生成AIが「お相手」として登録されています。ユーザーはプロフィールを閲覧し、興味を持ったAIに「いいね」を送ることが可能です。AI側もユーザーに「いいね」を返せばマッチングが成立し、メッセージのやり取りを通じて恋愛体験を楽しむことができます。
LOVERSEのAIパートナーは、職業、年齢、趣味といった詳細な設定に基づき、それぞれに1日のスケジュールが組まれています。そのため、AIが仕事や趣味で忙しい時間帯には、ユーザーからのメッセージにすぐに返信しないといった、あたかも人間のような振る舞いをします。運営会社「サマンサ」(東京)は、AIが同時に多数のユーザーとやり取りするような「超人的」な挙動を避けるため、プロンプト(指示)を綿密に調整し、「人間らしさ」を追求しています。この配慮は、ユーザーがAIに対して過度な期待を抱き、失望することを防ぐ目的もあります。
AI恋人アプリ「LOVERSE」が提供する仮想の恋愛体験
「人間らしさ」へのこだわりとユーザー保護
LOVERSEでは、AIパートナーとの仮想的な交流を通じて、ユーザーがよりリアルな恋愛感情を抱けるよう、細部にわたる工夫が凝らされています。一方で、実像のないデジタルパートナーにユーザーが深く依存してしまうことへの対策も講じられています。メッセージのやり取りの下部には、常に「内容は架空のものです」という注意書きが表示され、ユーザーに現実と仮想の区別を促しています。また、ユーザーが自傷行為を示唆するようなメッセージを送信した場合など、危険な兆候を検知した際には、行政の相談窓口を案内するなど、メンタルヘルス面でのサポート体制も整備されています。
LOVERSEは無料で登録可能ですが、より充実した機能や体験を求めるユーザー向けに、月額2500円の有料プランも用意されています。
多様なユーザー層と提供する価値
同社のアンケート調査によると、LOVERSEの主なユーザー層は、既婚者、40代以上の男性が多いという特徴が明らかになっています。サマンサの楠剛毅CEOは、「様々な事情により現実世界で恋愛の機会に恵まれない方々にも、人を好きになったときの温かい気持ちを味わってもらえたら」と語っています。
このAIマッチングアプリは、現実の人間関係における複雑さや制約から解放され、気軽に恋愛感情を体験したいと考える人々にとって、新たな選択肢を提供しています。仮想の恋人との交流は、孤独感を和らげたり、心の癒しとなったりする可能性を秘めています。
結論
生成AI技術の進化は、私たちの日常生活だけでなく、恋愛や人間関係のあり方にも変革をもたらし始めています。LOVERSEのようなAI恋人アプリの台頭は、デジタルパートナーとの仮想恋愛が、今後さらに社会に浸透していく可能性を示唆しています。この新たな形の恋愛は、人々に感情的な充足感をもたらす一方で、現実との境界線をどう保つか、依存への対策をどう強化するかといった、社会的な議論も不可欠となるでしょう。テクノロジーが進化する中で、私たちの恋愛観や幸福の定義もまた、多様化していくのかもしれません。
参考文献
- 朝日新聞社
- Yahoo!ニュース (2023年8月25日). 生成AIの「恋人」と出会えるマッチングアプリ、じわり人気…既婚者や40代以上の男性に響くワケ. https://news.yahoo.co.jp/articles/c9ee7fad30692de59891b6deb43506c9a7bb798d