東大卒のリアルな収入事情:学歴エリート層にも根深いジェンダーギャップの現実

東京大学を卒業した人々は、日本社会において「学歴エリート」と称され、そのキャリアや収入に大きな注目が集まります。彼らは一体どれほどの収入を得ているのでしょうか? 東京大学大学院教授である本田由紀氏による卒業生への大規模調査データは、世代や性別によって月収に顕著な差があることを明らかにしました。最も高い層と低い層では、月収に50万円以上の開きがあるという衝撃的な事実も示されています。この調査結果は、単に「東大卒の稼ぎ」という興味深い側面だけでなく、日本社会に根深く存在するジェンダーギャップ、特に女性のキャリアと収入における課題を浮き彫りにしています。

東大卒のキャリアと収入に関するイメージ写真東大卒のキャリアと収入に関するイメージ写真

東大卒における月収の実態と世代・性別による明確な格差

今回の調査は、本田由紀氏が2022年11月9日から2023年1月31日までの期間に、東大卒6万人を対象に実施したものです。仕事の状況、家族の状況、東大入学以前および在学中の生活、社会に対する意見など多岐にわたる質問項目に対し、2437名が回答を寄せました。特に、働いている人に対して「1カ月あたりの収入(税引前・諸手当込み)」を10万円刻みの選択肢で尋ねた結果は、東大卒の収入構造を深く理解する上で極めて重要です。

回答分布を見ると、月収100万円以上の割合が3割を超えている点は注目に値します。しかし、それ以外の層にも幅広く分布しており、一概に「全員が高収入」とは言えない実態が伺えます。世代別の平均月収では、最高年齢層でやや収入が低くなる傾向が見られますが、これはこの世代において正規雇用の割合が以前の世代よりも下がることが要因と考えられます。

さらに注目すべきは、どの世代においても男性より女性の方が収入が低いという明確なジェンダー格差です。特に子育て期にあたる30代・40代の壮年期の2つの世代では、その差が顕著に拡大しています。同じ東京大学出身者という共通の高学歴を持ちながらも、ライフステージにおける男女間の収入格差が明確に発生していることは、日本社会におけるジェンダーギャップの根深さを如実に物語っています。

一般大卒者との比較:突出する東大卒の収入水準と女性の二重の課題

東大卒業生の内部に見られる収入のジェンダー格差は明確ですが、これを東大卒業生以外、すなわち日本の大卒者全般の収入水準と比較すると、また異なる側面が見えてきます。2023年度に厚生労働省が実施した「賃金構造基本統計調査」における学歴が「大学卒」である者の月収平均値と、東大卒業生調査における学部卒のみの平均月収を比較した結果、東大卒業生の収入水準は日本の大卒者全体と比べてかなり高いことが明らかになりました。

この比較では、特に30代・40代の壮年期において、同じ性別同士で比較した場合、東大卒業者が一般大卒者全般の倍近い収入水準に達しているケースも確認されています(関連する研究として、朴澤泰男氏の論文が参照される)。また、東大卒女性は、日本の大卒男性全般と比較しても収入水準が上回っているというデータも示されました。こうした東大卒業生の収入の高さには、勤務先企業の規模や職種が大きく反映されていると考えられます。ただし、東大卒業生調査の回答者が高収入者に偏っている可能性には注意が必要です。

しかし、この圧倒的な高収入という優位性を持つ東大卒の女性であっても、自らの出身大学の男性と比較した場合には、依然として大きな収入格差に直面しています。加えて、厚生労働省の賃金構造基本統計調査からも読み取れるように、日本の大卒者全体においても男女間の収入格差は明確に存在しており、東大卒女性は「高学歴の優位性」と「女性であることによる社会的な課題」という二重の状況を抱えていると言えるでしょう。

結論

本田由紀教授による「東大卒」の収入に関する調査は、彼らが日本の大卒者全体と比較して圧倒的な収入優位性を持つことを明確に示しました。しかし、その内部には世代や性別による顕著な差が存在し、特に子育て期にあたる30代・40代では、東大卒という共通の学歴を持つにもかかわらず、男女間の収入格差が深く根付いている現実を浮き彫りにしています。東大卒女性が一般大卒男性を上回る収入を得ている一方で、東大卒男性との間には依然として大きな隔たりがあることは、学歴エリート層においても、依然としてジェンダーギャップという社会構造的な課題が根深く横たわっていることを示唆しています。このデータは、単なる高学歴者の収入事情に留まらず、日本社会全体の男女平等に向けた継続的な取り組みの重要性を改めて問いかけるものです。

参考文献

  • 本田由紀編著『「東大卒」の研究――データからみる学歴エリート』
  • 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年度)
  • 朴澤泰男「大卒男性の年間収入と出身大学の所在地・設置者の関係について――就業地による違いに着目した考察」『NIER Discussion Paper Series』第4号、2017年、1-22頁