小数点以下の攻防は日本医師会(横倉義武会長、日医)が財務省をかろうじて押し切る格好となった。医師らの技術料や人件費にあたる「本体部分」を0・55%引き上げることが固まった、令和2年度の診療報酬改定。本体のマイナス改定を求める財務省と、プラス改定を主張する日医、日医をバックアップする厚生労働省との間で激しい攻防が展開された。(坂井広志、桑原雄尚)
13日夕、横倉氏の携帯電話が鳴った。電話の主は加藤勝信厚労相だった。
「働き方改革分の0・08%を含め0・55%です。働き方改革は基金でも上積みし、診療報酬と基金のハイブリッドで対応します」
日医は働き方改革を前面に出し、人件費増を重点要望していた。前回(0・55%)を上回らなかったが、重点要望には診療報酬と基金の両方で対応する-。そんなメッセージに横倉氏は納得した。
麻生太郎副総理兼財務相が攻勢を仕掛けてきたのは5日の経済財政諮問会議。「診療報酬の引き上げは医療機関にとって収入増だが、国民には負担増となる。国民全体の負担の抑制を主眼に置いて、慎重に対応する必要がある」と語り、日医を牽制(けんせい)した。
これに日医も黙ってはいなかった。医療系団体で構成する国民医療推進協議会は6日、総決起大会を開き、「適切な財源を確保するよう強く要望する」とした決議を採択した。大会には与野党の幹部らが多数出席。紹介される度に「頑張ります」などと気勢を上げる議員たちに、横倉氏は満面の笑みで拍手を送った。 横倉氏が一貫して求めたのは、前回を上回る改定率だ。11日には講演で、他産業に比べて医療従事者の賃金の伸びが低いことを指摘し「少なくとも1%の賃上げをする必要がある。国費ベースでは517億円で診療報酬改定でいえば0・5%だ」と語った。
自民党厚労族は12日、非公式幹部会を開催。伊吹文明元衆院議長は厚労省幹部に強気で財務省と交渉するよう叱咤(しった)激励した。
日医と厚労省は「0・55%」という攻防ラインの土俵際で踏ん張った。財務省は0・3%まで譲ることも念頭にあったが、それもかなわなかった。日医は自民党の有力支持団体。診療報酬の改定率は時の首相の意向を無視して決まることはない。来年夏の東京五輪以降の衆院解散がささやかれる中、日医の意向がむげにされることはなかった。