教師の長時間労働と部活動問題:家族が直面する悲痛な現実

日本の教育現場で長年問題視されてきた教師の長時間労働。中でも「部活動の顧問」を務める教員は、放課後や土日も仕事に追われ、家族との時間はおろか、自身の心身を削る過酷な状況に置かれています。SNS上には、夫が不在がちであることへの妻たちの嘆きが溢れており、その声は働き方改革が現場に浸透していない実態を浮き彫りにしています。文部科学省は部活動の地域移行を進める方針ですが、特に高校の現場では、いまだ抜本的な改善が見られないのが現状です。本記事では、この問題に直面する当事者たちの声を通じて、その深刻な実態に迫ります。

「結婚しているのにシングルマザーのよう」:妻たちの悲痛な声

インターネット上のSNSでは、教師である夫や父親が部活動の仕事で忙殺されている現状に対し、「夫が休日も部活で家にいない」「子どもの発熱時の看病はいつもひとり」「結婚しているのに、まるでシングルマザーのようだ」といった、数えきれないほどの悲痛な声が投稿されています。これらの投稿は単なる不満に留まらず、教員の働き方改革が現場レベルでいかに進んでいないかを示す証左となっています。

こうした教員の妻たちに取材を行い、生の声を聞きました。東京都内で5歳と2歳の子どもを育てるAさん(30代)の夫は、公立高校のサッカー部顧問を務めています。

「先日、下の子が39度を超える熱を出したのですが、夫は県大会で朝から晩まで家にいませんでした。LINEを送っても、『今試合中だから無理』と一言だけ。救急外来へは私が一人で駆け込み、看病で徹夜しましたが、翌朝も夫は『準決勝だから』と言ってまた出ていきました。結婚しているのに、完全にシングルマザーの気分です。正直、『こんなことになるなら、教師と結婚するんじゃなかった』と思うこともあります」

さらにAさんは、夫の部活動が家庭の食卓にも大きな影響を及ぼしていると語ります。「平日の夕方、ご近所の家は家族で夕飯を囲んでいるのに、うちはいつも私と子どもたちだけです。子どもに『パパは?』と聞かれて『部活だよ』と答えるたびに、胸が締め付けられます。土日も常に部活動。遊園地に行くのも、公園に行くのも、私と子どもたちだけ。自分自身のメンタルを保つためには、夫はもう“いない人”だと思い込むしかないんです」。

日本の教育現場における教員の過重労働問題を象徴する画像日本の教育現場における教員の過重労働問題を象徴する画像

小学1年生の息子と小学3年生の娘を持つ関西在住のBさん(40代)もまた、同じ苦しみを抱えています。公立中学校で野球部の顧問を務める夫は、娘の運動会にも部活動の大会を優先して参加できませんでした。

「娘が『どうしてパパはいつも来ないの?』と泣いた時、これは“仕方ない”で片づけて良い問題なのかと、私自身に問いかけました。部活動が原因で、夫婦関係も日々摩耗しています。休日の朝、夫が『今日も部活』と玄関を出るたびに、『少しは家のこともしてよ!』と怒鳴ってしまうこともあります。すると夫は、『顧問だから仕方ない』と逆ギレするんです。私は子ども二人を抱えてワンオペで家事育児をこなし、夫は“部活動”という免罪符で家庭の責任を免除される。離婚を考えたことは何度もあります」

Bさんは、夫が「優勝した!」と興奮して帰宅した夜のことを振り返り、複雑な心境を明かしました。

「『だから何?』としか思えませんでした。私たちが寂しく夕食を食べた記憶と比べたら、優勝なんてどうでもいい。結婚しているのに、夫婦で同じ方向を見ていない。SNSで同じ悩みを打ち明けると、『うちも同じです』と多くの共感が返ってきて、初めて救われたような気持ちになりました」

教員自身も蝕まれる部活動の負担

しかし、“被害者”は妻や子どもたちだけではありません。教員自身もまた、部活動によって人生を大きく削られ、心身の疲弊に直面しています。過重な部活動顧問の負担は、教員のワークライフバランスを著しく損ね、教育の質の低下にもつながりかねない深刻な社会問題として、より一層の対策が求められています。

結論

教師の長時間労働、特に部活動顧問がもたらす過重な負担は、教員自身の健康やモチベーションだけでなく、その家族の生活、ひいては子どもたちの成長にも深刻な影響を及ぼしています。妻たちが「結婚しているのにシングルマザーのようだ」と嘆く声は、日本の教育現場における働き方改革の喫緊の必要性を強く訴えかけています。文部科学省による部活動の地域移行といった取り組みは進められていますが、特に高校現場での具体的な改善は依然として見られず、実効性のある制度改革と支援が不可欠です。教員が安心して教育に専念できる環境を整え、家族が共に過ごす時間を確保できる社会を実現することは、日本の未来を支える教育の質を高める上で極めて重要な課題と言えるでしょう。

参考文献