人材不足が加速する日本:企業の3割が導入する「アルムナイ採用」の光と影

深刻化する人材不足を背景に、日本企業の間で「アルムナイ採用」が急速に広がりを見せています。一度退職した元社員を再び迎え入れるこの採用形態は、即戦力の確保や採用コストの削減に繋がるとして注目されています。しかし、再雇用された社員からは、復帰ならではの苦悩や人間関係の課題も指摘されており、雇用の定着には依然としてハードルが存在します。

アルムナイ採用とは?人手不足時代の新たな潮流

「アルムナイ(alumni)」とは、英語で「卒業生」や「同窓生」を意味する言葉です。企業が退職した元社員を再雇用する「出戻り採用」は、近年「アルムナイ採用」として位置づけられ、新たな採用戦略の一つとして脚光を浴びています。

総務・人事専門誌の調査(1月)によると、企業の総務担当者116名を対象に行った実態調査では、32.8%の企業がアルムナイ採用制度を持ち、実際に再雇用の実績があると回答しています。この数値は、企業が人材確保のために多様な選択肢を模索している現状を示しています。

なぜアルムナイ採用が積極的に行われるのでしょうか。同調査で41社にその理由を尋ねたところ、「即戦力として活用できる」が85.4%と最も多く、次いで「既に社内文化になじんでいるから」「人材不足を補うため」がそれぞれ58.5%でした。これは、ゼロから新しい人材を育成するよりも、企業の文化や業務を理解している元社員が早期に戦力となることへの期待が高いことを示唆しています。

日本企業のアルムナイ採用が増加し、多くの企業が元社員を再雇用している現状を示す日本企業のアルムナイ採用が増加し、多くの企業が元社員を再雇用している現状を示す

企業が注目する「アルムナイネットワーク」の価値

かつて日本企業では、一度退職した社員を「裏切り者」と見なす風潮がありました。しかし、慢性的な人手不足に悩む現在、その認識は大きく変化しています。全国紙の経済部デスクは、「少なくとも退職者は一度その社のカルチャーにフィットした人であり、人材育成にかかるコストもまっさらな人を採用するよりはるかに安くすみます。外部経験を自社に取り込める可能性もある」と指摘します。

近年では、「アルムナイネットワーク」と呼ばれる元社員のコミュニティを構築し、退職後も良好な関係を維持しようとする企業も現れています。これにより、退職者を優良な人的資本として捉え直し、再雇用の機会だけでなく、新たな事業連携や情報交換のハブとしての活用も視野に入れています。外部で得た知見やスキルを社内に還元できる点は、企業にとって大きなメリットとなり得ます。

現実:アルムナイ採用で復帰した社員の体験談

東京都内の大手IT企業に勤める上村かおりさん(仮名、41歳)は、新卒で入社した会社を2019年に退職しましたが、昨年「アルムナイ採用」制度を利用し、5年ぶりに古巣に復帰しました。夫の海外転勤と幼い子どもの育児が主な退職理由でしたが、会社に「アルムナイ採用」制度があったことで、正社員として再雇用される道が開けました。

「正直、復帰するのはかなり面倒くさくなっていました(笑)。一度退職してまた同じ会社に戻るというのは、なかなかの精神力が必要なんです」と上村さんは語ります。しかし、制度の利用期限が退職後5年までであったこと、そして子どもの教育費などを考慮し、復帰を決意しました。

現在、上村さんは退職前に所属していた部署で働いていますが、「5年経っているので、当時の同僚の多くは異動していなくなり、気分は新入社員の頃のよう」だと話します。スキルは蓄積されているものの、退職金の積み立てがゼロからのスタートであることや、給料が同期よりも大幅に低い点は、再雇用ならではの現実だと受け止めています。

再雇用された社員が直面する職場の人間関係や待遇面での苦悩再雇用された社員が直面する職場の人間関係や待遇面での苦悩

アルムナイ採用の光と影:定着に向けた課題

アルムナイ採用は、企業にとって即戦力確保や採用コスト削減という「光」をもたらす一方で、再雇用された社員が直面する「影」も存在します。上村さんのケースのように待遇面での差は物理的な課題ですが、より深刻なのは心理的な側面です。

記事の冒頭で示唆された「古株から嫌がらせを受けた」というケースは、再雇用された社員が「一度会社を辞めた人」というレッテルを貼られ、周囲から見下されたり、不公平な扱いを受けたりする可能性を示しています。特に、かつての後輩が上司になっているような状況では、人間関係の再構築が難しく、心理的な負担となることがあります。このような環境は、せっかく戻ってきた社員のモチベーションを低下させ、最終的には再び会社を去る原因にもなりかねません。

企業がアルムナイ採用を成功させ、再雇用された社員の定着を図るためには、単に制度を設けるだけでなく、以下のようなきめ細やかな配慮が必要です。

  • 復帰社員への丁寧なオンボーディング: 変化した社内状況やシステムへの再適応を支援する。
  • 公平な評価制度とキャリアパス: 退職歴が評価や昇進に不当に影響しないよう、明確な基準を設ける。
  • 既存社員への意識啓発: アルムナイ採用の意義を伝え、受け入れ側の理解と協力体制を醸成する。
  • 相談窓口の設置: 再雇用社員が抱える悩みや不安を安心して相談できる環境を提供する。

まとめ

人材不足が深刻化する日本において、アルムナイ採用は企業が競争力を維持するための重要な戦略となりつつあります。即戦力の確保や採用コストの削減といったメリットは大きいものの、再雇用された社員が直面する職場での摩擦や心理的な課題も無視できません。アルムナイ採用を単なる「出戻り」ではなく、企業の「人的資本」を再活用する戦略として真に機能させるためには、制度設計に加え、社員が安心して長く働けるような受け入れ体制と職場環境の整備が不可欠です。企業と社員双方にとって Win-Win の関係を築くための努力が、今後の日本における雇用市場の鍵を握るでしょう。

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