韓国の若者世代において、5つ星ホテルでのプロポーズや高級ブランド品の交換が、婚約の儀式として不可欠なものと認識されている実態が、ある研究によって明らかになりました。これは、従来のダイヤモンドの指輪中心のプロポーズ文化から、SNSでの「見せびらかし消費」を意識した、より華やかな演出や具体的な高級品を重視する傾向への変化を示唆しています。日本を含む国際社会における若者の消費行動や結婚観の変化という観点からも注目される現象です。
調査が示す韓国の現代プロポーズ実態
研究背景と調査方法
この興味深い結論は、誠信女子大学消費者産業学科のヤン・スジン副教授の研究チームが、「ミレニアルの若者たち(1980年代から90年代半ばに生まれた世代)のプロポーズ文化における高級ブランドの意味に対する研究」と題した論文で発表したものです。研究チームは昨年9月1日から15日の間に、写真共有アプリ「インスタグラム」上で「プロポーズ」というハッシュタグが付与された投稿128件を詳細に分析しました。この調査は、韓国のミレニアル世代の具体的な行動や価値観を浮き彫りにすることを目的としています。
最も人気なのは「5つ星ホテル」での演出
分析の結果、若い世代がプロポーズの場所として最も好むのは「ホテル」であることが判明しました。全投稿の42%に当たる55件がホテルでのプロポーズを報告しており、そのうち38件の投稿にはホテルに関する具体的な情報が記載されていました。ホテルブランド名が明記されていた19件のうち、実に17件は5つ星ホテルでした。特に、ソウル・蚕室にある高級ホテル「シグニエル ソウル」の場合、「99階」や「93階」といった具体的な階数まで記載されているケースが見られました。研究チームは、これを「高級ホテルの中でもさらに格が高いことをアピールするため」と分析しています。
韓国ミレニアル世代の華やかなプロポーズ文化を示すイラスト。高級ブランド品と指輪が並べられ、特別な瞬間を演出している様子。
ホテルに次いでプロポーズの場所として利用されたのは「車」で、24件(19%)を占めました。しかし、この場合もBMWやメルセデス・ベンツといった輸入高級車に限定されており、投稿写真に車のブランド名を写し出したり、コメントで言及したりする傾向が見られました。これは、プロポーズの演出においても、背景となるモノのブランド価値が重視されていることを示しています。
婚約記念品トレンド:バッグやネックレスが指輪を凌駕
「シャネル」バッグが最多数の記念品
プロポーズの記念品として最も多く登場したのは、意外にも「高級ブランドのバッグ」でした。バッグ関連の投稿計38件のうち、最も頻繁に言及されたのは「シャネル」で、全体の半数にあたる19件に上りました。バッグに続いて多かった記念品はネックレスで、こちらでは「ヴァン クリーフ&アーペル」が最も人気を集めていました。この結果は、婚約記念品に対する価値観が、実用性や流行、そしてSNSでの視覚的なアピールを強く意識したものへと変化していることを示唆しています。
ダイヤモンドリングの地位低下とその理由
現代のプロポーズの象徴ともいえるダイヤモンドの指輪を、実際に投稿で前面に押し出すケースは比較的少数でした。調査対象の投稿のうち87件(68%)では、ダイヤモンドの指輪の写真が掲載されておらず、そのうち12件では指輪の実物ではなく、高級ブランドのリングケースが間接的に写されているに過ぎませんでした。
指輪の実物が掲載されていたのは38件で、この中で最も多く言及されたブランドは「ティファニー」(16件)でした。研究チームは、この傾向について「韓国では最近、結婚のプロポーズにおいて、ダイヤモンドの指輪よりもバッグや他の雑貨系のほうが目に付くようになっている」と説明しています。西欧では重要視されるダイヤモンドの指輪が、韓国のミレニアル世代にとっては重要度が低下している背景には、その高額な価格設定があります。ティファニーのダイヤモンド婚約指輪が7000万ウォン(約744万円)以上という水準であることが、その要因の一つです。研究チームはさらに、「韓国のミレニアル世代にとっては、ダイヤモンドの指輪よりも、高級ブランド品をインスタグラムでアピールすることのほうが重要であり、7000万ウォンの指輪一つと小さなパッケージは、高価な割に他人へのアピール効果が小さい」と分析しています。
「見せびらかし消費」とSNS文化への警鐘
プロポーズイベントの社会規範化
このような派手なプロポーズのスタイルは、韓国のミレニアル世代にとって、一種の慣習として社会に定着しつつあるようです。韓国リサーチが実施した「2025年結婚認識調査」によると、回答者1000人のうち45%が「プロポーズイベントが必要」だと答えており、特に未婚者層でこの傾向が顕著でした。これは、プロポーズが単なる個人的な愛情表現ではなく、社会的な期待やSNSを通じた共有が強く意識されるイベントとなっていることを示しています。
健全な結婚文化への提言
研究チームは、このような「見せびらかし消費」を美化するSNSコンテンツを批判的に受け止める力を養うためのSNSリテラシー教育の必要性を提案しています。また、社会人一年生や結婚を控えたカップルが、健全な結婚習慣と財政的安定性を保てるよう支援する「公共結婚準備教育」政策を導入すべきだと主張しました。この論文は、『消費者政策教育研究』の2025年6月号に掲載されており、現代社会における消費行動と結婚文化のあり方について、重要な問いを投げかけています。
参考文献
- 誠信女子大学 消費者産業学科 ヤン・スジン副教授 研究チーム, 「ミレニアルの若者たちのプロポーズ文化における高級ブランドの意味に対する研究」, 『消費者政策教育研究』2025年6月号.
- 韓国リサーチ, 「2025年結婚認識調査」.