アブダビ、人工波でサーフィンの新聖地に:富裕層を魅了する「サーフ・アブダビ」の挑戦

アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビは、年間を通じて温暖な気候と晴天、そして美しい海に恵まれているものの、サーフィン愛好家が求めていた「完璧な波」だけは自然には存在しませんでした。しかし、この状況は昨年10月の人工サーフィン施設「サーフ・アブダビ」のオープンにより一変。運営企業は、この画期的な施設を通じてアブダビを世界的なサーフィンの名所へと押し上げようとしています。

アブダビの人工サーフィン施設「サーフ・アブダビ」で、完璧な人工波に乗ってロングライドを楽しむサーファーたちアブダビの人工サーフィン施設「サーフ・アブダビ」で、完璧な人工波に乗ってロングライドを楽しむサーファーたち

「サーフ・アブダビ」の画期的な技術と特徴

「サーフ・アブダビ」の人工波プールは、全長690メートルという広大なスケールを誇り、サーファーは最大1分間にも及ぶロングライドを満喫できます。他の多くの人工波プールが淡水を使用する中で、この施設はアラビア湾から汲み上げた8000万リットルの海水を利用している点が特筆されます。この海水は、世界各地の海水に比べて塩分濃度が高いため、適切なサーフィン体験を提供するために塩分が調整されています。

波を発生させる技術も高度です。水中の「翼」を滑車で動かすことにより波を生成し、その波が理想的に崩れるようプールの底の形状が綿密に計算されています。この独自技術は特許を取得しており、施設運営責任者のライアン・ワトキンス氏もその革新性を強調しています。このプロジェクトの発案者は、史上最高のプロサーファーとして名高い米国人ケリー・スレーター氏です。彼は米南カリフォルニア大学の流体力学専門家アダム・フィンチャム氏と共同で、究極の「完璧な波」の創造を追求。その成果は2015年に米カリフォルニア州で開業した人工サーフィン施設「サーフ・ランチ」で初めて実証されました。

自然の波を超える「完璧な波」と高級市場への戦略

「サーフ・アブダビ」で生まれる波は、自然の海とは異なり、常に一定のコンディションを保ちます。ワトキンス氏はCNNのインタビューに対し、「私たちは量よりも質を重視するアプローチを採用し、世界最高水準の波を生み出している」と語っています。利用客の8割以上がサーフィンを目的に海外から訪れる旅行者であることからも、この施設が高級旅行市場を明確なターゲットとしていることが分かります。

メインプールの中級および上級コースでは、一度に参加できるサーファーはわずか4人に限定されます。料金は1人3500ディルハム(約14万円)で、最低6本の波が保証されています。しかし、ワトキンス氏によれば、90分で2万ディルハムのプール貸し切りを選ぶ顧客も多いとのことです。高額な料金設定にもかかわらず、その価値は十分にあると同氏は強調します。ロングライドに加え、2本の波のトンネル(チューブ)体験、水上でのパーソナルコーチング、そして映像分析サービスまで提供され、まさに「完璧な波」を体験するための全てが揃っています。

世界のサーフィン旅行業界は昨年、683億ドル(約10兆円)規模に達し、2030年にはさらに959億3000万ドルまで拡大すると見込まれています。「サーフ・アブダビ」はこの成長市場における富裕層顧客の獲得を目指しています。そのためには、単に人工の波を提供するだけでなく、自然の海でのサーフィンを凌駕する特別な価値と体験をいかに提供できるかが、成功の鍵となるでしょう。


参考文献