イタリア屈指の観光都市ベネチアでスリの被害が急増しており、ベネト州のルカ・ザイア知事が、窃盗犯への電子足輪装着を公に提案し、その議論が注目を集めています。観光客を狙った犯罪が深刻化する中、地元当局は抜本的な対策の必要性を強く訴えています。
ベネト州知事の提案とその背景
8月27日、英紙テレグラフなどが報じたところによると、ザイア知事は窃盗犯による再犯防止策として、電子足輪の装着を提案しました。知事はこの提案の背景として、「地域を訪れる観光客が容易にスリの餌食になっている」現状を挙げ、「ベネトの全ての都市を守る義務を感じている」と述べました。
ザイア知事はさらに、観光客は「神聖不可侵な存在」であるにもかかわらず、彼らがベネチアの街や通りを「恐る恐る歩く」状況は「容認できない」と指摘。現在の司法制度が複雑で、「適切な処罰が下されていない」ことが、犯罪がはびこる原因の一つだと強調しています。窃盗犯に電子足輪を装着することで、彼らが犯行エリアに再び立ち入ろうとした際に即座に当局へシグナルが送られ、効果的な監視と再犯防止に繋がると主張しています。知事は「スリは軽微な犯罪ではない。市民、観光客、企業の安全を脅かす犯罪に立ち向かわなければならない」と訴え、強い姿勢を示しました。
ベネチアの観光地でスリ行為に及ぶ窃盗犯のイメージイラスト。観光客が被害に遭う様子が描かれている。
SNSで拡散された衝撃動画と現状
現職の州知事が電子足輪導入を強く主張するきっかけとなったのは、最近SNS(交流サイト)で広く拡散されたある動画でした。この動画には、ベネチアを旅行中に財布やアップル社のワイヤレスイヤホン「AirPods」などの所持品を盗まれた50代の米国人女性観光客が、AirPodsの「探す」機能を使って10代の窃盗犯3人組を捕まえる様子が収められています。
女性は窃盗犯のうち14歳の少女の髪の毛を掴み、警察が到着するまで約1時間にわたり手を離しませんでした。この動画はTikTokで約400万回再生され、ベネチアでのスリ被害の深刻さを浮き彫りにしました。現地の犯罪組織は、14歳未満の青少年は起訴されないというイタリアの司法制度の抜け穴を悪用し、彼らにスリをさせていると報じられています。この状況は、観光客だけでなく、地元住民にとっても大きな懸念事項となっています。
ベネチアでスリを働き逮捕された14歳の少女の髪の毛をつかむ米国人女性観光客。被害に遭った後、自力で犯人を捕まえた様子。
観光都市としての信頼回復と今後の課題
ベネチアにおけるスリ被害の急増は、観光都市としての国際的な評価にも影響を与えかねません。ザイア知事の電子足輪導入提案は、観光客の安全を確保し、都市の信頼回復を図るための喫緊の対策として提唱されており、その実現性や効果について、今後さらなる議論が交わされることでしょう。イタリアの司法制度の課題と、観光立国としての防犯対策の強化は、ベネチアだけでなく、イタリア全体が直面する重要な課題です。