「共同親権」時代への課題:養育費未払いの深層と7割超が未収の実情

昨年成立した改正民法により、導入が目前に迫る「離婚後の共同親権」。この法改正は、離婚後も父母双方が子どもの養育に責任を負うことを明確化するものです。しかし、その陰で長年社会問題となっているのが「子どもの養育費未払い」。日本の子どもたちの約7割が適切な養育費を受け取れていないという深刻な現実が浮き彫りになっています。共同親権の理念が掲げる「子どもの利益」実現に向け、養育費の確保は喫緊の課題と言えるでしょう。

養育費の受給率が3割以下であることを示すグラフのイメージ画像。日本における養育費未払いの深刻な現状を視覚的に表現。養育費の受給率が3割以下であることを示すグラフのイメージ画像。日本における養育費未払いの深刻な現状を視覚的に表現。

改正民法と共同親権が提起する養育費未払いの現状

改正民法は、父母が離婚後も子どもの利益のために互いを尊重し、協力する義務を明確にしています。しかし、この理念とは裏腹に、日本においては離婚した父親から養育費を受け取っている母子世帯は3割以下に留まり、実に7割以上が未払いの状況です。これは、単に金銭的な問題に留まらず、子どもの生活環境や将来に大きな影響を及ぼしています。

ある女性は、離婚時に月6万円の養育費を受け取る取り決めを交わしたものの、1年以上未払いが続いていると話します。「夫が仕事を失い、生活が困窮したため払えないと…」。3人の男の子を育てる彼女は、「子どもの服や靴は綺麗なものを履かせたいが、古着で節約している。食費で手一杯だ」と、苦しい家計の実情を明かしました。このような個々の家庭の経済的困窮は、社会全体の課題として認識されるべきです。

「払うのが馬鹿らしい」元夫が語る養育費不払いの理由

では、なぜ養育費の支払いが滞るのでしょうか。約4年前に離婚したスミヨシさん(40)は、「最初からもう払う気なくて、なんか馬鹿らしい」と衝撃的な言葉を口にします。彼は離婚時、月額4万5000円の養育費を支払うと取り決めたものの、直近2年ほどは支払いを停止しているといいます。

養育費の支払いを停止した40代の男性「スミヨシさん」のインタビュー風景。プライバシー保護のため顔の一部が隠されている。養育費の支払いを停止した40代の男性「スミヨシさん」のインタビュー風景。プライバシー保護のため顔の一部が隠されている。

スミヨシさんが支払いをやめた最大の理由は、「子どもと会えないこと」です。「子どもとも、離婚すると大体会えなくなっちゃうのはわかっていたので、もう払うのやめた」と述べます。面会交流について裁判所が働きかけはするものの、最終的な決定権は親権を持つ元妻にあり、「そこが『知らん』って言えばそれで終わる」と、現行制度の限界を指摘します。離婚後、子どもと会えたのは一度きりだと言います。

元妻から給与差し押さえの命令が出た際、彼は既に会社を退職していました。「会社員ではないから、給与債権を差し押さえられない。差し押さえられなかったら、何か刑事的な罰則は今のところ日本にはない。会社を辞めたタイミングで怖いものがなくなったので、支払うのをやめた」と、法的な抜け穴の存在を語ります。彼は「子どもに会わせてくれたら、過去の分も含め養育費を支払う」と条件を提示しつつ、「元気に暮らしてるかな、ぐらいは思うが、自分の子どもである気持ちは薄れていった」と、複雑な心情を明かしました。

養育費確保と子どもの福祉への道筋

「共同親権」の施行が迫る中、養育費の未払いは、子どもの健やかな成長を阻害する深刻な社会問題であり続けています。親権の有無にかかわらず、父母双方が子どもの養育に対する責任を果たすことは、子どもの利益を最優先する上で不可欠です。スミヨシさんのように面会交流と養育費支払いを結びつける親の存在や、法的な強制執行の限界が浮き彫りになる中で、より実効性のある制度設計と、親の責任意識を高めるための社会的な啓発が求められます。子どもたちが安心して成長できる環境を保障するため、この養育費未払いの現実と向き合い、具体的な解決策を模索していくことが、これからの「共同親権」時代に課せられた重要な課題と言えるでしょう。

参考資料