日本のテレビドラマ、なぜ質が低下?芸能界のいびつな構造と脚本変更の実態

「今、(テレビ局制作の)テレビドラマなんて観るのは馬鹿だけ。話が面白いかどうかとか、どうでもいいんだ」——あるプロデューサーが自嘲気味に語るこの言葉は、日本のテレビドラマ界が抱える根深い問題を浮き彫りにしています。長年にわたりテレビ業界に潜む「いびつな構造」は、コンテンツの質にどのような影響を与えているのでしょうか。ノンフィクション作家である田崎健太氏の最新刊『ザ・芸能界 首領たちの告白』(講談社)から一部抜粋し、その深層に迫ります。日本のテレビドラマの「質低下」は、芸能界の力関係と無関係ではありません。

日本のテレビドラマの質低下問題を象徴する、会議風景のイメージ日本のテレビドラマの質低下問題を象徴する、会議風景のイメージ

芸能界のリアル:杉田かおるが明かす女優とバラエティの使い分け

筆者が1999年末に出版社を退社する直前、女優の杉田かおる氏の担当編集者を務めていました。彼女の過去の恋愛を“フィクション”としてまとめる過程で、その後の交流も深まり、仕事仲間を交えて食事をする機会もありました。子役時代から芸能界を渡り歩いてきた杉田氏の話は常に興味深く、特にバラエティ番組への出演を増やしていた時期の洞察は印象的でした。彼女曰く、女優としてテレビに出る際は自然体で、一方、バラエティ番組では、がに股気味でやや猫背に立つことで親しみやすさが生まれ、笑いが取れやすくなるというのです。この細部へのプロ意識は、まさしく女優としての「経験」と「専門性」の表れであり、筆者は感銘を受けました。

脚本変更の衝撃:マネージャーの意向がドラマ制作を左右する実態

ある日、杉田氏が出演する舞台を鑑賞した後、仕事仲間との食事会に参加しました。席には、直近のテレビドラマを担当したプロデューサーも同席していました。会話の中で、そのプロデューサーはドラマ制作時の苦労話を打ち明けました。主演女優の科白が少ないと、マネージャーが突然口を挟み、その場面を大幅に変更せざるを得なかったというのです。「脚本を勝手に書き変えていいんですか」と筆者が問うと、プロデューサーは大きく首を振り、「そうしないと(その女優に)出てくれないならば仕方がないんです」と答えました。このやり取りから、「脚本家」への断りの必要性が全く論点となっていない事実に驚かされました。このエピソードは、日本のテレビドラマ制作において、主役級の俳優とそのマネージメントを行う芸能プロダクションが絶大な「権力」を持っているという「芸能界の構造」を明確に示しています。

高視聴率ドラマ『やすらぎの郷』に見る、もう一つのドラマ制作

このテレビドラマ制作の「いびつな構造」について取材したのは、2017年のことでした。ちょうどその頃、老人ホームを舞台にしたテレビドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)が昼間の放送にもかかわらず高視聴率を記録し、大きな話題となっていました。当時82歳だった脚本家の倉本聰氏は、このドラマを執筆するきっかけについて、インタビューで「同年配の友人たちが『見るテレビ番組がない』と漏らしたことだ」と語っていました。視聴者の声に真摯に応えようとする倉本氏の姿勢は、マネージャーの意向に左右されるドラマ制作とは対照的です。筆者は、以前にも1999年に北海道の富良野で倉本氏に話を聞く機会がありました。彼の「専門性」と「信頼性」に裏打ちされた作品作りは、今日の「テレビドラマ 質 低下」問題に対し、一つの解決策を提示しているようにも思えます。

結論

日本のテレビドラマの「質低下」は、単なる制作予算や企画力の問題に留まらず、芸能界特有の「いびつな構造」に深く根差していることが見えてきます。特に、主役級俳優と芸能プロダクションが持つ「権力」が脚本にまで干渉する実態は、クリエイティブな自由度を奪い、結果としてコンテンツの魅力を損ねる原因となり得ます。視聴者が真に「価値ある」情報やエンターテインメントを求める中で、テレビ業界はこうした内部構造の問題に目を向け、より健全な作品制作のあり方を模索していく必要があるでしょう。

参考文献

  • 田崎健太. (刊行年未記載). 『ザ・芸能界 首領たちの告白』. 講談社.
  • Yahoo!ニュース. (2025年9月8日公開記事より抜粋). 『〈実家は貧しく、芸能スクールに1時間30分歩いて通っていたことも…まだ無名の“安室奈美恵の才能”に誰よりも早く気づいた『ある男の存在』〉 から続く「今、(テレビ局制作の)テレビドラマなんて観るのは馬鹿だけ。話が面白いかどうかとか、どうでもいいんだ」と自嘲気味に語るプロデューサーも……。 なぜ日本のテレビドラマの質は低下したのか? 長年、テレビ業界が抱えるいびつな構造を、ノンフィクション作家である田崎健太氏の最新刊『 ザ・芸能界 首領たちの告白 』(講談社)より一部抜粋してお届けする。』 (最終アクセス日:2024年5月10日). URL: https://news.yahoo.co.jp/articles/d809bff9820b2d6ac1b32d9eef1af88f28fbfba3