世界的な物価高騰が続き、多くの飲食店が「苦渋の決断」として値上げを発表する中、テイクアウト海鮮丼チェーン「丼丸」の創業者である大島純二会長は、「絶対に値上げはしない」と断言しています。コメの価格が倍になるなどの厳しい状況下でも、500円(税抜き)という価格を維持し続けるその秘密は、単なるコストカット術に留まらない、創業者自身の深い商売哲学と、40年以上にわたる顧客への「恩返し」の精神にありました。
物価高でも「ワンコイン」を貫く海鮮丼専門店
都営新宿線大島駅(東京都江東区)の出口を出てすぐの場所に、青い波しぶきの看板が目を引くテイクアウト海鮮丼専門店「笹舟 丼丸」大島店があります。激安のから揚げ店や弁当屋が軒を連ねる下町情緒あふれる一角で、ひときわ目を惹く存在です。
わずか2、3人も入れば窮屈になる店内の壁には、色とりどりの海鮮丼の写真が所狭しと並んでいます。サーモンやネギトロなど5種類以上のネタが乗った一番人気の「丼丸丼」をはじめ、「まぐろ丼」、あさりがたっぷり乗った「深川丼」まで、その種類は60種類以上にものぼります。これら全ての丼がワンコイン、税抜き500円(税込み540円)で提供されている光景は、物価高騰が続く現代において信じがたいものです。
青い波しぶきの看板が特徴的なテイクアウト海鮮丼専門店「丼丸大島店」
この常識破りの店を一代で築き上げたのが、創業者である大島純二会長です。現社長の亀山政典氏によると、わずか12坪の店舗でありながら月商600万円を売り上げています。しかし、その裏側には経営の苦悩もあります。「大島店では原価率57%を目指していますが、正直、人件費やコメの高騰もあって今は60%ほどです」と亀山氏は明かします。飲食店の平均原価率が30%程度と言われる中、この数字は異例の高さです。
「0の日」特売に見る“狂気”の商売術
「丼丸」の商売の独自性は、さらに深く「0の日」と呼ばれる月に3回の特売日に表れます。この日には、税抜き500円の丼が税込み500円で提供されます。実質的な40円引きとなるこのサービスは、驚くべき効果を生み出しています。
「客数は通常の180人から350人と倍近くに跳ね上がり、売上も倍以上になります」と亀山氏は語ります。しかし、この特売日の原価率は約80%にも達するといいます。「正直きついですよ」と本音を漏らしつつも、「でも、たった40円でこれだけお客さんが喜んでくれる。これが本質なんですよね」と付け加えます。
なぜ、ここまで「無謀」とも思える商売を続けるのでしょうか。その問いに対し、創業者である大島会長はこともなげに答えます。
海鮮丼を手に持ち、笑顔を見せる丼丸創業者・大島純二会長
46年分の「恩返し」:商売を続けるための哲学
大島会長の言葉の核心は「感謝」と「恩返し」にあります。「物価や材料費が上がったからって、『こっちも苦しいから値上げしよう』じゃ、一方的じゃないですか。(1979年の創業以来)40年以上も商売させてもらったんだから、感謝の恩返しですよ。その気持ちがなきゃ、商売は続きません」。
この言葉は、単なる理想論や綺麗事ではありません。大島会長の40年以上にわたる商売の歴史を知れば、この「感謝」と「恩返し」の精神こそが、厳しい市場で「丼丸」が成功し続けるための根幹にあることが理解できます。物価高騰という逆境の中でも、顧客への変わらぬ奉仕と感謝の心を貫く「丼丸」の経営哲学は、現代社会において多くの示唆を与えています。





