2025年6月に公開された映画「国宝」が、国内興行収入173億7000万円を突破し、22年ぶりに実写邦画の記録を塗り替えるという歴史的な快挙を成し遂げました。この目覚ましい成功の立役者の一人として、歌舞伎俳優の中村壱太郎(35)が今、各方面から引っ張りだことなっています。国民の10人に1人が鑑賞した計算になるという観客動員数は、公開以来1231万人に達し、その影響力は計り知れません。映画は先月から米国でも公開され、来年の米国アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品としてノミネートされており、世界的な注目も集めています。
映画「国宝」異例の大ヒットと中村壱太郎の指導
映画「国宝」の興行収入は、これまでの歴代1位であった平成15年公開の「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の173億5000万円をわずかに上回り、新たな金字塔を打ち立てました。この作品は、芸に生涯を捧げた歌舞伎役者の一生を描いたもので、監修を四代目中村鴈治郎(66)が務めました。しかし、主演の吉沢亮(31)や共演の横浜流星(29)らに女形の所作を指導し、その演技に深みを与えたのが、鴈治郎の長男である中村壱太郎だったのです。
壱太郎は歌舞伎俳優としてだけでなく、日本舞踊吾妻流の七代目家元・吾妻徳陽としての顔も持ち合わせています。映画の撮影には父子で参加しましたが、壱太郎は舞踊家としての専門知識を活かし、吉沢と横浜が並んで舞踊を披露する重要なシーンの演目として、「二人道成寺(ににんどうじょうじ)」を発案しました。2025年11月18日に都内で行われたトークイベントで、壱太郎は二人の「二人道成寺」での踊りについて、「吉沢さんは色っぽく、流星さんはパーッと派手で、華やかさが違う」と、それぞれの個性の違いを喜びながら振り返っています。
若手女形のエースとして躍進する中村壱太郎
歌舞伎界のサラブレッド:中村壱太郎の血統と実力
いまをときめく二人の人気俳優が、撮影現場で世代が近い壱太郎を「師匠」と呼び、絶大な信頼を寄せていたことは、彼の指導力と人柄の証です。その壱太郎は、歌舞伎界において「若手女形のエース」として将来を嘱望される存在でもあります。彼の血筋はまさに生粋のサラブレッドと言えるでしょう。祖父は平成6年に人間国宝に認定された坂田藤十郎(故人)、祖母は参議院議長も務めた元女優の扇千景(同)、そして母は舞踊家の二代目吾妻徳穂(68)という、芸能界の華やかな系譜に連なります。さらに、叔父には中村扇雀(64)、大叔母には中村玉緒(86)と、上方歌舞伎界きっての名門一族の出身でもあります。超優良血統に加えて、幼稚舎から大学まで慶應義塾に通った慶應ボーイという、文武両道の才能の持ち主です。
躍進止まらぬ舞台オファーと今後の展望
映画「国宝」の大ヒットは、中村壱太郎に追い風となり、東西の劇場から大役のオファーが相次いでいます。かねてよりその演技の実力には定評がありましたが、映画製作への関与が彼の評価をさらに高め、知名度も急上昇しました。
2025年1月には、大阪松竹座で女形の歌舞伎舞踊の中でも屈指の大曲とされる「京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」を踊ることが決定。これは、彼の舞踊家としての真価が問われる大舞台となるでしょう。続く3月には京都南座に出演し、「国宝」で吉沢と横浜が演じた「曽根崎心中物語」の主人公、女郎お初役を演じることが決まっています。
さらに、彼の快進撃は止まりません。2025年7月には、東京・新橋演舞場でスタジオジブリの名作アニメ「もののけ姫」を基にした新作歌舞伎に、ヒロインの少女サン役として出演します。主人公のアシタカ役は市川中車(60)の長男である市川團子(21)が務め、売れっ子の若手共演として、今から大きな話題を呼んでいます。
中村壱太郎の多才な才能と、映画「国宝」の成功がもたらした影響は、歌舞伎界全体に新たな活気を与えています。伝統芸能と現代のエンターテインメントが融合することで、彼のさらなる活躍と、歌舞伎の新たな魅力がより多くの人々に届くことが期待されます。
参考文献
- 週刊新潮 2025年12月11日号 掲載
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