部活動の地域移行は格差を広げるか?中学生スポーツ活動における家庭の経済的負担に迫る

日本の学校文化として長く親しまれてきた部活動が、今大きな転換期を迎えています。国主導で公立中学校の部活動を地域のスポーツクラブや文化クラブへ移行させる動きが進む中、その影響について懸念の声が上がっています。特に、この改革が一律に推進されることで、中学生のスポーツ参加機会に格差が生まれる可能性が指摘されています。本稿では、「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」の内容に触れつつ、笹川スポーツ財団の最新調査結果に基づき、子どものスポーツ活動における家庭の経済的・時間的負担という観点から、部活動の地域移行が抱える問題点を探ります。

進む部活動改革と地域移行の背景

日本独自の学校文化として定着してきた部活動は、現在、国主導で地域のスポーツクラブや文化クラブへの移行が進められています。2025年12月22日に公表された「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」では、2026年度からの3年間で、休日の学校部活動については原則として地域展開の実現を目指すことが掲げられています。さらに、平日についても、多岐にわたる課題を解決しながら改革を進める方針が打ち出されています。

地域移行への取り組みが本格化したのは、スポーツ庁と文化庁が2022年に「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を策定してからのことです。この改革の背景には、少子化の進行により学校での部活動の維持が困難になってきたことや、教員に過度な負担を強いてきた従来の部活動体制が限界を迎えているという現状があります。しかし、部活動の地域展開については、受け皿となる地域クラブの拡充、指導者の確保、そして地域クラブで活動する際の費用負担額など、様々な課題が指摘されています。

笹川スポーツ財団調査が示唆する「格差拡大」の懸念

このような状況下で、2025年11月に笹川スポーツ財団が公表した調査結果は、重要な示唆を与えています。この調査では、一律での地域展開の推進が、中学生のスポーツ参加機会の格差拡大につながりかねない可能性が指摘されました。同財団は、2025年1月に中学生の子どもを持つ保護者3136名を対象に「中学生のスポーツ活動と保護者の関与に関する調査」を実施しました。

部活動改革と地域クラブ活動への移行の概念図部活動改革と地域クラブ活動への移行の概念図

保護者への調査に込められた意図

笹川スポーツ財団シニア政策ディレクターの宮本幸子氏は、この調査の狙いについて言及しています。先行研究では、中学生の部活動への加入率が家庭の経済格差の影響を受けにくいことが示されていました。これは、学校の施設を利用し、教員が顧問を務めることで、家庭が比較的低い費用負担で活動に参加できたためです。子どもたちは家庭環境に関わらず、学校部活動のおかげでスポーツや文化活動に触れる機会を得てきた経緯があります。

しかし、部活動の地域展開が進むにつれて、家庭の負担や関与がより強まることが予想されます。これにより、家庭環境によって子どもの地域クラブへの参加率が左右されることになるのではないかという懸念が生じました。この懸念を検証するため、笹川スポーツ財団は、中学生のスポーツ活動に関する保護者の意識や、彼らが現在直面している負担の実態を詳細に調査することにしたのです。

公立中学校の部活動改革、特に地域クラブ活動への移行は、教員の負担軽減や少子化問題への対応として重要な施策です。しかし、笹川スポーツ財団の調査が明らかにしたように、この改革が一律に推進されることで、これまで学校部活動が担ってきた「家庭環境に左右されずにスポーツ機会を提供する」という役割が失われ、中学生のスポーツ活動における経済格差が拡大するリスクがあります。地域クラブの充実や指導者の確保はもちろんのこと、保護者の費用負担や時間的関与が新たな障壁とならないよう、より慎重かつきめ細やかな対策が求められます。