2025年4月、暴力団社会に激震が走りました。六代目山口組が神戸山口組などとの抗争終結を一方的に宣言し、その後、組織のトップ人事に大きな動きがあったのです。約10年に及んだこの抗争の終結と、六代目山口組の今後の動向について、ジャーナリストの溝口敦氏とフリーライターの鈴木智彦氏が深く掘り下げます。かつてない速さで変貌を遂げる日本のヤクザ社会は、一体どこへ向かうのでしょうか。
抗争終結の背景と予想通りの展開
鈴木氏は、昨年の「週刊ポスト」対談で溝口氏が予測した通り、山口組が一方的に抗争を終結させたと指摘します。当時、この見解に山口組は激怒したと伝えられましたが、結果的に溝口氏の予測が的中した形となりました。抗争終結後、組織運営にかかる経費の大幅な削減が進んでいるといい、他団体への祝い花の胡蝶蘭が二段から一段に変更された例が挙げられています。
溝口氏は、2005年に六代目体制が誕生してから20年が経過し、膠着状態の継続は組織の衰退を招くと語ります。一方的な抗争終結宣言以外に出口はなかったというのが氏の見解です。決断の背景には、83歳になる司忍組長の高齢化、そして高山清司若頭の体調不良も影響しており、10年間の抗争を経て、あらゆる状況が「頃合い」だったと分析しています。
ジャーナリストの溝口敦氏(左)とフリーライターの鈴木智彦氏が対談
六代目山口組の「勝利」とその代償
鈴木氏は、10年間の抗争を総括すると、山口組は圧倒的な力の差を見せつけ、喧嘩に勝ったのは間違いなく六代目山口組であると断言します。神戸山口組側の反撃は、山健組の中田浩司組長による弘道会拠点前の銃撃事件(一審無罪)や、神戸から離脱した絆會の金澤成樹若頭による殺傷事件など、限定的だったと評価しています。
しかし溝口氏は、抗争は六代目山口組の一方的な勝利であったにもかかわらず、勝者であるはずの六代目山口組ですら組員数を減らしている点を指摘します。これは過去の抗争で山口組が勢力を拡大してきた歴史とは異なる状況です。鈴木氏もまた、喧嘩には勝ったものの、組織の発展という観点から見れば、六代目山口組が「勝負に勝った」と断言できるかには疑問が残ると述べます。一方、神戸山口組側は組織を切り崩されながらも「自分たちの生存を認めさせる」という目的を果たしたとも解釈でき、喧嘩には負けたが勝負には勝ったと強弁できなくもない状況です。
暴力団社会の未来と「トクリュウ」の台頭
溝口氏は、今回の分裂抗争の結果、六代目山口組、神戸山口組、絆會、池田組の全てが組員数を減らしただけでなく、稲川会や住吉会といった他の広域暴力団も同様に規模を縮小している現状に触れ、「暴力団は時代に勝てず、オール負け」と結論付けます。鈴木氏も、合理的に考えれば10年前のあの時期に抗争に突入すべきではなかったとし、暴力団社会全体が衰退する中で抗争は自殺行為であり、警察の思うつぼだったと語ります。
溝口氏は、昭和の「山一抗争」のような劇的な喧嘩が不可能であることは山口組も承知していたはずだと述べ、これまでの六代目山口組を築き上げてきた高山若頭にも、抗争を回避するという大局観が欠けていたと指摘します。唯一、絆會の織田絆誠会長がその可能性を考えていたが、あまりにも小勢力だったと付け加えています。
鈴木氏は、もはや暴力団という従来の形では生き残ることが難しい時代に入り、山口組も否応なく変わらざるを得ない状況にあると分析します。警察が「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と呼ぶ半グレなどの新しい形態の犯罪組織の方が、今の時代にマッチしているとも語ります。溝口氏は、現在トクリュウの方が経済規模も勢いも上回るものの、ヤクザに取って代わることはないと見ています。ヤクザが「男を売る稼業」であるのに対し、トクリュウは「自分を隠す」商売であり、顔を売ることができないため、山口組のような権威を持った巨大組織が誕生することはないとの見解を示しています。
六代目山口組による抗争終結宣言と組織再編は、単なる内部の問題に留まらず、日本社会における暴力団の存在意義と未来を深く問いかける出来事です。溝口氏と鈴木氏の対談が示すように、もはや暴力団はかつての姿では生き残れない時代に直面しています。組織の衰退、新しい犯罪形態の台頭は、私たち社会全体が今後、いかに組織犯罪と向き合っていくべきかを改めて考えさせるでしょう。
識者プロフィール
- 溝口敦(みぞぐち・あつし)
1942年生まれ、東京浅草出身のジャーナリスト。早稲田大学政経学部卒業。『食肉の帝王』で講談社ノンフィクション大賞を受賞。『暴力団』『続・暴力団』(ともに新潮社)、『ヤクザ崩壊 浸食される六代目山口組』(講談社+α文庫)など著書多数。 - 鈴木智彦(すずき・ともひこ)
1966年生まれ、北海道出身のフリーライター。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社後、『実話時代BULL』編集長を務め、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。
※本記事は「週刊ポスト2026年1月16・23日号」の内容に基づいています。





