【主張】出生数90万人割れ 少子化への危機感足りぬ


 ■人口減に見合う豊かさ追求を

 少子化が止まらない。今年国内で生まれた日本人の数は明治32(1899)年に統計を取り始めて以来初めて90万人を割ることが厚生労働省の推計で分かった。

 人口減少も深刻である。死亡者数から出生数を差し引いた人口の自然減は51万2千人と、こちらも初めて50万人の大台を超えた。わずか1年で鳥取県が消滅するほどの減少である。衝撃は大きい。

 まさに国難である。うまく対応できなければ、日本の国力は確実に衰退へと向かうだろう。

 人口減少の勢いを少しでも抑えるため、まず少子化対策に万全を尽くすべきは当然である。

 それでも今の人口構成では、長期的に人口が減る傾向は変わらない。この厳しい現実から目を背けるわけにはいかない。

 人口が減っても豊かさを享受できる社会をいかに構築するか。そのための大胆な発想の転換も、同時に図らなければならない。

 ≪政治の怠慢は許されぬ≫

 推計によると、出生数は86万4千人となる。厚労省の研究機関は当初、86万人台は令和3年と見込んでいた。現実はそれより2年早い。少子化が加速している。衛藤晟一少子化担当相は「驚異的な数字が出てしまった。相当思い切った手を打つことがどうしても必要だ」と語った。

 こうした事態を招いた原因の一つには、政治の怠慢もあった。

 平成元(1989)年には1人の女性が生涯に出産する子供の推定数を示す合計特殊出生率が1・57となり、丙午(ひのえうま)だった昭和41(1966)年の1・58を下回った。「1・57ショック」である。

 だが、当時はバブル景気に浮かれた楽観論が横行した。

 戦後日本の経済成長を支えた原動力は潤沢な労働力である。その担い手として社会を支える生産年齢人口(15~64歳)が90年代をピークに減少に転じた際も危機感は高まらなかった。

 ここから得られる教訓は、根拠のない楽観論を排することだ。

 厚労省によると、今年の出生数が減ったのは、改元がある5月に結婚を遅らせた人が多く、出産時期が後ずれした可能性があるという。その分、来年以降は回復するとみているなら甘すぎる。過去の反省が生かされていない。

 安倍晋三政権は平成27(2015)年、少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も1億人の人口を維持する目標を設定した。「1億総活躍社会」である。それでも少子化が加速した事実を政府は厳しく受け止めるべきである。

 少子化の大きな要因は晩婚化による未婚者の増加だ。ライフスタイルの変化や、低収入などによる将来不安が背景にある。女性の場合、育児休暇をとりにくい職場だったり、産後、職場に戻ってもキャリアアップを望めなかったりすることも大きい。出産に二の足を踏むのも当然である。

 昨年度の育休取得率は、80%を超える女性に対し、男性の取得率は約6%だった。企業には、育休取得や定時退社しやすい職場環境をつくる意識改革が必要だ。

 保育所を増やして待機児童を減らす取り組みも引き続き重要である。幼児教育の無償化だけではなく、保育士を確保できるよう待遇改善を図る必要がある。

 ≪2人目以降を支えたい≫

 抜本的な対策として、2人目の子供を産めば児童手当を倍増するなどの支援策や、第3子以降に高額の報奨金を支給するなどの思い切った施策も検討してほしい。

 巨額の財源が必要だが、それほど少子化は深刻だという認識を共有することが重要だ。社会全体で結婚、出産、子育てを支え、多くの人が子供を産んで育てたいと思える環境を整える必要がある。

 少子化対策と並行して進めるべきなのが、人口減少時代に対応した社会構造の変革である。

 例えば、地域ごとに多くの人が近くに集まって住めるような町づくりをする。これにより高齢者を含む人々が徒歩圏内で日常生活を営めるようにならないか。

 このまま人口減が進めば、多くの地方自治体が立ちゆかなくなるとも指摘される。全国の隅々までまんべんなく行政サービスを提供し、公共施設を整備することが難しくなるのは自明である。

 人口減を避けられない前提と考えて国や社会のあり方を根本から変える。その覚悟がなければ、日本の危機は決して乗り越えられないと考えなければならない。



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