トヨタ自動車の販売子会社、トヨタモビリティ東京(東京都港区)は、地域密着型配送サービスを3月から本格実施する方向で検討に入った。既にドラッグストアの商品を購入者の自宅まで届ける実証実験を行っており、消費者の声を分析し、サービス拡充も視野に入れる。自動車関連サービスは自動運転など次世代技術に脚光が当たりがちだが、地域住民の困りごとを解決するためのニーズは根強く、今後の展開が注目される。
同社は昨年4月、都内のトヨタ直営販社4社が統合して発足。江戸川区と地域活性化包括連携協定を結び、7月から江戸川中央店でベンチャー企業と連携して配送サービスを実証している。区内のドラッグストア9店で買い物した客が、レジで配送料を支払い依頼すると、店からベンチャー企業を介して担当者に連絡。担当者は店で商品を車に積み、その日のうちに自宅まで届ける。1回の買い物で購入した全商品を、段ボール10個を上限に100円(税別)で配送する。
サービス名は、地元とトヨタをつなげた「ジモトヨタ」。高齢者や自転車の親子連れでは、かさばって持ち帰りにくい水やトイレットペーパーなどの注文が多いという。注文は1日20件程度。サービスを担うのは再雇用者を含む同社の従業員3人で、人材の有効活用という目的もある。担当の東海林孝さんは「リピーターが多く、届けるとお礼の言葉をいただける。やりがいが大きい」と話す。
始めた経緯について、村山巌執行役員は「自動車業界が変革期を迎え、『車を売るだけでは厳しくなる』という問題意識がある中、地域の皆さんの役に立てる事業を検討した」と説明。利益を出すよりも、地域との結びつきを深める狙いで、「店のイメージが良くなった」(江戸川中央店の深沢茂店長)という。
実証は2月末までで、3月からの展開は地域の住民の声を聴いて決める方針。江戸川区での配送サービスは本格実施に移行する方向で、他の地域でもそれぞれの実情に応じて新サービスの展開を模索している。
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トヨタ自動車は、自動車を製造して販売する従来のビジネスに加え、サービス面を強化し、幅広い事業を行う「モビリティー(乗り物)カンパニー」への脱皮を目指している。IT技術の発達により、1台の車を複数の世帯で使うことが容易になってきたほか、将来は複数の移動手段を組み合わせ一つのサービスとして提供する次世代移動サービス(MaaS)の市場も拡大するとみられるからだ。
トヨタは今年1月、さまざまなモノやサービスがインターネットでつながる実証都市「コネクティッド・シティ」を静岡県裾野市に建設する方針を発表。来年初めに着工する。約70・8万平方メートルに同社の従業員ら約2千人が実際に暮らし、自動運転車両やロボット、人工知能(AI)などの最適な活用法を探る。インフラには太陽光や水素による発電を活用。住宅ではセンサーとAIを使うことで自動的に冷蔵庫を補充したり、健康状態をチェックしたりできるという。
この実証都市でも利用が予定されている開発中の箱型自動運転電気自動車「eパレット」は、将来的にトヨタのMaaSの中核を担うと期待されている。動く店舗や病院、オフィス、ホテルなど、さまざまな用途に使われることを想定。今夏の東京五輪・パラリンピックでは、選手村(東京都中央区)の中を巡回する自動運転バスとして使われ、選手や大会関係者の移動を助ける予定だ。
平成30年秋にはMaaSの本格展開を見据えてソフトバンクとの提携を発表。国内ではカーシェアリングや定額制サービス「KINTO(キント)」などにも力を入れている。(高橋寛次)