1月の訪日客数推計調査では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響は限定的だったが、既に中国人客は全国の観光地で大きく減少し始めている。JR西日本は19日、2月1~14日の山陽新幹線の利用者数が前年同期比12%減だったと発表した。北陸新幹線は10%減、在来線特急も15%減と軒並み落ち込んだ。日本人の国内旅行控えや韓国人客の訪日敬遠の動きも続く。政府は訪日客4千万人目標を維持する方針だが、日本の観光産業は厳しい局面に立たされている。
札幌市中央区の大通公園などで開催されていた北海道の冬の風物詩「さっぽろ雪まつり」の来場者は、昨年から3割近く減少。実行委員会は「新型コロナウイルスに関連した肺炎の世界的な発生」などを減少の原因に挙げた。
「重症急性呼吸器症候群(SARS)よりも影響は深刻だ」。大阪府のホテル関係者はこう語る。平成15年のSARS流行時と比べて宿泊客に占める外国人の割合が増え、特に中国人客への依存度が大きいことが痛手となった。
福岡市内のタクシードライバーも「中国や韓国人客がさっぱり見当たらなくなった。年明けから肌感覚ではかなり景気が良くないよ」とこぼす。市内のホテル関係者も「昨年に比べ、宿泊者数が減少している。移動そのものが鈍っている」と語る。
影響は中国人客だけではない。ホテルのキャンセルが相次ぐ大阪府では、「中国人だけでなく国内客も減っている」(広報担当者)という。九州でも同様に、中国以外の国や日本人団体客の予約も不調とする声が国土交通省九州運輸局の調査で明らかになっている。岩月理浩局長は、19日の記者会見で「全体的に旅行は自粛ムード。観光施設は、外国人だけでなく日本人の旅行が減少し始めている点を心配している」と語った。
今後の懸念も強い。大阪や京都の観光業界関係者は、花見や歓送迎会など春の宴会シーズンを前に自粛ムードの過度な拡大を不安視。中国・武漢では春節(旧正月)を祝う宴会が感染を広げたと指摘されているほか、国内でも東京都内のタクシー会社による屋形船での新年会が感染拡大の要因の一つと疑われているためだ。
感染拡大による影響から事業運営が厳しくなっている中小観光業者も増えており、政府も中小企業向けに5千億円規模で資金繰り支援する方針だ。
訪日客4千万人の目標達成は厳しくなるばかりだが、田端浩観光庁長官は19日の記者会見で、目標を維持する方針を明言した。田端氏は日中の航空路線便数が新型コロナウイルスの影響拡大の前に比べて約7割も減少している厳しい状況を指摘する一方、達成に向けてこう意気込んだ。
「感染症の予防対策に傾注するが、状況を見極めながら適切な時期にプロモーションに取り組む。施策を講じて今年の目標を官民挙げて取り組みたい」(大坪玲央、岡田美月、田村慶子、中村雅和)