【主張】ロシアの改憲 領土条項を全力阻止せよ


 ロシアのプーチン大統領が進める憲法改正をめぐって、北方領土問題を抱える日本にはとうてい看過できない動きが出てきた。

 改憲に関する作業部会で「領土の割譲」や「領土交渉」を禁じる条項を設けるべきだとの提案がなされ、プーチン氏が賛意を示したのである。

 この改憲が現実のものとなれば北方領土交渉はいっそう難しくなる。安倍晋三政権は強い危機感を持ち、領土条項の創設を全力で阻止しなければならない。

 プーチン氏は1月、唐突に改憲の作業に乗り出した。下院に改憲法案を提出し、議員や法律家らによる作業部会を立ち上げた。

 改憲の主眼は、プーチン氏が大統領任期の切れる2024年5月以降も実権を保持できるよう、権力機構を改変することだ。厄介なことに、新憲法には対外政策に絡むことも盛り込まれかねない。

 最近の作業部会では政権派の著名俳優がプーチン氏に、大統領の交代後に外国の領土要求が強まる恐れがあるとして、領土条項を具申した。日本の北方領土や、ロシアが14年に併合したウクライナ南部クリミア半島などを例に挙げた。プーチン氏は「その考えは気に入った」と応じた。

 北方四島はロシアが不法占拠する日本固有の領土であり、ロシアに帰属すると定めた国際文書は一切ない。日露両国は「四島の帰属」を「法と正義の原則」で解決するとした東京宣言(1993年)などの諸合意に基づいて交渉を続けてきた。

 それにもかかわらず、近年のプーチン政権は北方領土が「第二次大戦の結果としてロシア領になった」との主張を強め、領土問題の存在を否定しようとしている。改憲で領土交渉を禁じようとする動きはその延長線上にある。

 ロシアが新憲法を盾にして日本との北方領土交渉を拒みかねないということだ。それほどの重大事態であるのに、安倍政権や国会に明確な行動が見られないのはどうしたことか。

 過去の合意をほごにする不誠実な改憲は、日露関係の基盤を破壊する。安倍政権はこうロシアに説き、聞き入れられないなら対抗措置をとると通告すべきだ。安倍首相はモスクワで5月に予定される対独戦勝75年式典に招待されているが、訪露する環境でないのは自明である。



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