欧州で新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。イタリアが各種店舗の全面閉鎖に乗り出すなど各国が対応を急ぐ一方、米国は欧州からの入国を禁じる方針を決めた。米国の姿勢に批判も上がるが、自由に行き来ができる欧州で効果的な封じ込めに重要な各国の協調は欠いたままだ。欧州の結束は試練に直面している。
ロイター通信などによると、イタリアのコンテ首相は11日、12日から2週間、薬局や食料品店などを除き、全土でレストランなど各種店舗を全面閉鎖すると表明した。欧州で感染が最も深刻な同国は移動制限を全土に拡大したばかりだ。
国境を接するスイスの南部州では11日、50人以上の集会禁止や一部を除く学校の閉鎖を決め、デンマークも全ての学校の閉鎖を決定。欧州連合(EU)によると、3月に入って激増した欧州の感染者は11日までに周辺の非加盟国を含め1万8042人、死者は4292人に上り、各国は感染防止に躍起だ。
トランプ米大統領はこうした欧州の状況を受け、欧州諸国からの入国禁止を発表。欧州メディアではこれに対し、トランプ氏が世界的な感染拡大を「EUの責任にした」(独紙南ドイツ新聞)との批判も上がり、EUを離脱した英国を例外扱いしたのは、良好な関係を持つジョンソン英首相への「あいさつ」(独紙ウェルト)との見方も上がった。
ただ、米国が入国禁止対象としたのは、国境の検問を廃止した「シェンゲン協定」の26加盟国。各国間の自由往来を実現した同協定は戦後の欧州統合の成果の一つだが、各国が連携できなければ、感染者の移動などの把握が困難になる“弱点”をはらむ。一方、協定に不参加の英国は独自に出入国をチェックでき、この点が米国の判断に影響した可能性は否めない。
実際、感染封じ込めをめぐり、EUの協調はきしんでいる。EU側は「開かれた国境」を維持する姿勢だが、感染者の入国を警戒する国は「イタリアは国民に欧州への渡航を禁じるべきだ」(チェコのバビシュ首相)と要求。オーストリアはイタリアとの国境で健康証明のない人々を拒否するため独自に検査を始めた。
感染防止では、仏独などがマスク輸出を規制し、批判も上がる。欧州メディア「ポリティコ」は各国が協調できないまま封じ込めなければ、かつての債務危機や移民・難民大量流入のような「新たな危機」になりかねないと懸念した。(宮下日出男)