【カイロ=佐藤貴生、シンガポール=森浩】新型コロナウイルスの感染拡大を受け、イスラム教徒の多い中東やアジアの国々でモスク(イスラム教礼拝所)への立ち入りを禁じたり、宗教行事を中止したりする動きが相次いでいる。「礼拝」はイスラム教の宗教上の義務行為であり、モスクは人々の休息や情報交換の場ともなってきた。各国政府の措置には信徒からさまざまな反応が出ている。
世界中の信徒が日々、その方角を向いて祈りをささげる第1の聖地、サウジアラビア西部メッカにあるカーバ神殿は今月上旬、信徒の訪問が禁じられた。メッカには国内外から年間800万人の巡礼者が訪れており、感染拡大を未然に防ぐ狙いだ。サルマン国王は25日、首都リヤドととともにメッカのロックダウン(都市封鎖)を命じた。
米誌タイム(電子版)によると、イラン北東部マシャドや中部コムでは政府がシーア派の聖地への立ち入りを禁じたのに対し、16日には抗議する人々が聖地に押しかけ、警官隊ともみ合う騒ぎとなった。
中東では、感染がコムを起点に周辺国へ飛び火したにもかかわらず、シーア派の法学者が統治するイランでは聖地やモスクでの礼拝禁止措置が遅れた。施設への立ち入り継続を求める熱心な信徒と、感染拡大阻止を求める世論の間で政府が板挟みになった形だ。
中東最大の人口を抱え、全土に10万を超えるモスクがあるエジプトは21日になって、モスクやキリスト教の教会の使用禁止を命じた。ロイター通信によると、SNS上では決定が遅いとして政府への批判が多数出たという。
マレーシアでは、2月27日~3月1日に開催されたイスラム教の大規模集会が国内最大のクラスター(感染者集団)となり、当局が対応に追われている。
集会は首都クアラルンプールのモスクで行われ、国内外から約1万6千人(同国保健省発表)が参加。マレーシアでは23日現在、1518人の感染が確認され、うち943人がこの集会を感染源としている。海外からも約1500人が参加したとされ、帰国後の感染者も確認されている。
保健当局を悩ませているのは、ミャンマーからマレーシアに逃れてきたイスラム教徒少数民族ロヒンギャが約2千人参加していたとみられることだ。ほとんどが不法滞在者であるため、追跡作業が難航している。
ムヒディン首相は18日、イスラム教徒にとって重要な金曜日の礼拝を含む、すべての宗教行事の中止を決めた。
マレーシアでの感染拡大を受け、インドネシアでも20~22日に予定されていたイスラム教の大規模な集会が中止となった。地元メディアによると、州政府などがモスクでの礼拝や集会を中止するよう呼びかけているが、徹底されていないという。地元ジャーナリストは「一部市民は『新型コロナウイルスと戦うために祈る』という趣旨で、むしろモスクに積極的に足を運んでいる」と話す。